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染めるということ・・水が運ぶ色
白いブラウスに赤葡萄酒を少しこぼしてしまった。
細い木綿の糸に染み込んだボルドーの赤色。
赤色の軌跡は、縦横に走る繊維の管の中を流れる水のように行き着く所まで広がっていく。
「染め」という行為は、色の元となる化学物質(染料)と、色を変化させる化学物質(触媒)を使って行われる。そして、染料も触媒も必ず水を媒体にしているのです。
どんな狭い所も縦横無尽に入り込んでゆく水。
ミクロの世界に立ち会うと、染料を含んだ水が土石流の流れのように繊維の溝の中を激しく進んでいるのでしょう。
「染め」を操作するのはとても難しいのです。
なので、糸を先に染めてから織る絣のような織柄が太古から伝わるのに比べて、白い生地に染めで柄を描くことができるようになったのは、ずっと最近のことで、安土桃山時代以降のこと。
生糸や木綿や麻などの繊維を織上げた布に、「染め」で模様をつけるには、「思う所にだけ」に色が残ってもらわないと困る。
糸で絞るのも糊をつけるのも、水の流れを堰き止めるため。
江戸時代は、大蛇のように暴れる川の流れをなんとか人々の生活を守れるように堰を作って行った時代。
もしかしたら、糊という堰を使って、繊維を流れる水を自在に操った友禅染も同じような感覚だったのかもしれない。
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