『下界の神様奮闘記』第43話「神様と神様⑥」
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「……誰ですかあなた?」
誰てお前……。いくら俺がお前を目の敵にしているとはいえ、それはいくらなんでも寂しすぎるぞ……。
「あ、あのー、もしもし。えっとー、神山ですー……」
「神山? あー、神山さんか。お久しぶりです。どうですか? 下界は。快適に過ごせていますか?」
この野郎……。下界で俺がどんな目にあってきたか知りもしないで……。あ、でも振り返ってみれば意外と快適だったかも。鳥居家のみんなのおかげでね。うーん、まぁこのまま下界にいてもいいかもね。今後も鳥居家でお世話になれるのなら、俺の余生は下界で……。
って違う違う。俺は天界に戻りたいんだよ。だからお前と今こうして話をしているんだろうが。
「まぁ下界も悪くないよ。でも、俺は自ら望んで下界に来たわけではないけどな」
「その件は申し訳ありませんでした。私の失態により、神山さんが責任を取って下さったからでしたよね? その代わりといってはなんですが、神山さんのあとは私がしっかりと受け継いでいます。だから安心して下界生活を送られて下さい」
「まぁ待て。確かに俺は自ら望んで下界に来たわけではない。神楽の言う通り、神楽の失態による責任を取る形で下界に落とされたんだ。これがお前の罠だと知らずにね」
「何の話をしてるんです? 慣れない下界でしばらく過ごすことで、頭がおかしくなったんですか?」
頭がおかしいのはお前だ。教育担当の上司を、文字通り下界へ蹴落としてまで出世の道を開こうとしたお前に神様を名乗る資格はない。鬼だ鬼。お前は鬼だ。許すまじ。
「うるさいぞ、黙れ。黙れ黙れ。神楽も一応神様だろう? 俺が何の証拠も無しに連絡をよこすと思うか?」
「ええ。どうせ下界で色々と調べ回って、例のあの事件に関して、俺が下界に対して神の力を使い事実を捻じ曲げたという証拠を集めてきたんでしょう?」
えらい余裕だな、こいつ。いいだろう。お前が悪事を働いたという証拠をぶつけて、お前をその地位から、あわよくば下界に引きずり下ろしてやろう。そして、俺が天界に復帰するのだ。
「その通りだ。長々と話していても仕方無いから、神楽に確認したいことを1個ずつ聞いていくぞ」
「どうぞ、何でも答えますよ」
俺は下界で集めた情報を元に、例の事件が偶然ではなく、神の力が働いていたという証拠を神楽にぶつけていく。
「教育の時に神楽が担当していた下界のとある街、俺が落とされた下界でもあるが、そこでは野生動物の保護活動が進み、数年前から野良猫を見かけることが無くなったそうだ。それにも拘らず、例の事件が起こったその場所に野良猫が出没した。こんな偶然あるかな?」
さぁ、神楽よ。いきなり鋭い証拠を突き付けただろ……。反論出来るなら反論してみぃ!
「あぁ、確かにそれは私が神の力を使いました。野生動物の保護施設から、1匹の猫を脱走させたんです。そして、トラックの前にちょうど飛び出すように誘導したんです」
あ、あれ? 随分あっさりと……。
「そ、そうか。素直でよろしい。こっちも、反論に反論する手間が省けるからな。で、では次に行くぞ。道路に飛び出した猫を下界の女性が保護しに行ったんだが、猫と女性との間には距離があった上に、その時女性は子供と遊んでいたそうだ。しかも、その子供はわんぱくだから、目を離すわけにはいけない。それ故、その女性は遊んでる間は基本的にその子供から目を離さなかったが、猫が飛び出したその瞬間だけ、猫が飛び出した道路の方を振り向いてしまったそうだ。本人が言っていた。「その時だけ、なにか不思議な力が私に働いたような」感じがしたと。俺も何かしらの力が働いたと推測しているが、心当たりはあるか?」
「これも私です。猫を道路に飛び出させた瞬間、その女性を猫へ誘導するために神の力を使ったんです。そこへトラックがちょうどやって来るタイミングにね」
「そして、3つの全ての事象において神の力を使ったにもかかわらず、「猫が出没したこと」と「それを女性が保護しに行ったこと」に関しては「偶然に」起きたものと見せかけ、その上であたかも事故を回避させるために「トラックの軌道を変えること」のみに神の力を使ったように見せかけたんだな?」
「その通りです、神山さん。事故を回避させるためだけに神の力を使ったように見せかければ、確かに天界では事実を捻じ曲げることはご法度ですが、まあ人が死んじゃうよりはマシなので、必要以上に責められもしないでしょう。なにより、天界では若い部下の失敗は上司の責任になりますから。僕は厳重注意だけで済み、上司である神山さんが責任を取って下界に降ろされる。そして私は神山さんのあとをついで、その地位に座ることが出来るというわけです。でも、案外早くバレてしまいましたね。神山さんを下界に引きずり下ろすには良い作戦だと思ったのですが……」
「随分とあっさり自白するんだな。いいのか? これを上司に報告すれば、おそらくお前は地位を剥奪されるだけでなく、俺のように下界に落とされるかもしれないんだぞ?」
「残念ながらそれはないです。惜しかったですね、神山さん。よくぞまあ慣れない下界で情報を集めたものです。しかし、証拠が不十分ですよ?」
「証拠が不十分? あぁ、トラックが不可解に軌道を変えたことか。一応下界でも、トラックを点検した人物に話を聞いている。けど、これはお前がさっき自白したようなものだろう?事故を回避させるためだけにトラックの軌道を変えたんだと……」
「トラックの軌道を変えたのは事実です。しかし、私はトラックの軌道を「右側」に変えようとしたんです。でも、実際にはトラックの軌道は「左側」に変わってたんですよ。それがなぜだか、私には分かりません」
あれ? そういえば、確かにトラックの運転手や点検を担当した権藤さんが言ってたのは、トラックの軌道が少し「左側」に変わったって言ってたな……。
「で、でもトラックの軌道を変えたことを含めて、全ての事象で神の力を使ったのは明白じゃないか! もう十分証拠は出揃ってるはずだぞ!」
「証拠と事実が少しでも食い違う場合、それを一致させるためには「証人」が必要になるんです。確かに私は今崖っぷちです。ほとんど証拠が出揃っていますからね。ただ、トラックの軌道が変わったという点については食い違いがある。天界の裁判においては証拠がなによりも重要。それゆえ、少しでも証拠が不十分だと、私を裁判で負かすことは出来ないはずです。そこで、神山さんがその食い違いの事実を証明できる証人を天界の裁判所に連れてきた上で私を提訴すれば、証拠十分となり私は間違いなく敗訴するでしょう。しかし、果たしてそこまでできますか? 無理ですよね?」
だからずっと余裕だったのかこいつ……。
しかし、これだけ証拠が出揃っているにもかかわらず、まだ不十分なのか……。しかも、証人を見つけてこいと。こりゃあまた大変な作業になるな。
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