『下界の神様奮闘記』第39話「神様と神様②」
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「神山さーん! 次はあっちのテーブルに、お冷をお願いしますー!」
「は、はーい!」
仕事中に考え事はいかんな。終わってからまたゆっくり考えよう。今は集中、今は集中……。
「おう、神山くん。頑張ってるね」
だ、誰? 俺はただお冷を持ってきただけなのに、なぜ俺の名前を……?
あ、この人は……。
「久しぶり……でもないか。この間神鳴山で会ったばっかりだからね。あれから調子はどうだい?」
「神村さん、ご無沙汰しています。いつもご贔屓ありがとうございます。僕は相変わらず元気ですよ。下界の生活にもだんだん慣れてきました。神村さんはどうですか?」
「こらこら、神村は天界での名前だ。下界では勘解由小路だよ。まぁ、今はそんなことはどうでもいいか。私はもはや下界の人間の一員だよ。天界の頃の生活なんて忘れるくらい楽しんでる。ここの料理はもちろん、下界の食べ物は美味しいし、みんな親切だし。君もどうかね、下界に染まり切ってみるというのは?」
「いえ、私はまだ天界に未練がありますから……。確かに下界は良い所ですけどねぇ……」
「そうかい? それは残念だなぁ。下界では珍しい元神様仲間が出来ると思ったのに。それより、「例の事件」の情報は集まってきたかい? せっかく君はこうして元神様に出会ったんだ。私に何か協力できることがあるなら言ってくれよ」
そうだ。その手があった。神村さ……いや勘解由小路さ……やっぱり長くて面倒だから神村さん、神村さんがいるではないか。今の自分にとって唯一、天界と下界を繋げてくれる可能性のある人物……、いや元神様だから神物……、あ、でも今は下界で人間をやってるから人物……、ええい! ややこしい!
とにかく、神村さんは俺にとって文字通り「救いの神」だ。
これは相談する他ないだろう。
「神村さん。実は今困ってるんです。情報はだいぶ集まっているのですが、天界に連絡する手段がないんです。それで八方塞がりで……」
「はっはっは! そんな事だろうと思ったよ。では私が話を聞いてあげるから、また後日時間がある時に会おうではないか。今は業務中だろう? 後ろを見てごらん」
「う、後ろ?」
後ろを振り返ると、凪沙ちゃんが般若のような顔でこちらを見ていた。
「かーみーやーまーさーん! お仕事が滞ってますよぉー!!」
「は、はーい! すいませーん!」
「はっはっは! 大変そうだな! では近々、2丁目にある個室居酒屋で会おうではないか。そうだな、今度の土曜日の午前10時はどうだい?」
「分かりました。すみません、お時間を取らせてしまって。では、宜しくお願いします!」
「気にすることはない。こちらこそ、話し相手が増えて嬉しいよ。さぁ、凪沙ちゃんが再び怒りだす前に」
一筋の光が見えた気がする。今の自分にとってこんなに心強い人物はいない。今度の土曜日、何としてでも事件解決を手繰り寄せてやろうではないか。
次の土曜日。普段外出なんてしない俺を、鳥居家のみんなが物珍しそうに見てくる。
「あれ、神山さんが一人で外出なんて珍しいですね! あ、もしかしてデートですか? あれれ? いつのまにそんな人が……! 言ってくださいよ水くさいなー、もぉー」
デートなわけがないだろう。毎日居酒屋で仕事し、休日は部屋にいるか近所を散歩するかのどちらかだし。おまけに携帯電話も持っていない。こんな状態でどうやって相手を見つけるのか。むしろ教えてほしい。誰か教えて。
「ま、まぁたまには少し遠くまで行ってみようと思ってね。それともう年だから、健康のために少しでも体を動かしておかないと」
「健康への意識、大事ですもんね! 今は老老介護が問題になりつつあるので、今のうちから健康に気を付けることは非常に良いことだと思います。また、歳を重ねることで老人性うつなんかが……」
まずい、また始まってしまった。凪沙ちゃんの社会問題演説が。
ちゃんと聞いていたらいくら時間があっても足りない。
「凪沙! ちょっとー!」
「だから私はコンドロイチンや……、あ! お母さんが呼んでる! すみません、私行きますね。楽しんで来てください! 」
ありがとう、お母さん。では行って参ります。
俺は指定された2丁目にある個室居酒屋へと向かった。
個室居酒屋へ入ると、まだ午前中であるにもかかわらず沢山の人で賑わっていた。
「あのー、10時に予約していた勘解由小路のいう者が先に来ていませんか?」
「勘解由小路様、勘解由小路様、あぁ、はい。先に来られてますね。お連れの方ですか? ではこちらへどうぞ」
店員に付いて行くと、店内の一番奥の個室に案内された。中では神村さんが料理を食べながら酒を飲んでいた。すでに半分くらい料理が無くなっている。どえらいペースだな……。
「店員さん! このタコの唐揚げをもう一皿……、お、神山くん! 先に失礼しているよ! 飲み物は何にするかい?」
「あ……、はい。どうぞお構いなく……。じゃあ僕は烏龍茶でお願いします」
オーダーを聞いた店員さんが離れて行ったのを確認して、改めて神村さんに話しかける。
「今日はすみません。お時間を取っていただいて」
「そんな改まることはないよ。ここは天界ではないのだから、上司と部下の関係でもないからね。ただの飲み仲間だよ。それに、君も天界と繋がる手段がないのだろう。俺は一応元天界にいた者だ。こんな俺でも良かったら何でも相談してくれて良いからね」
「そう言っていただいて心強いです。では早速……」
「おっと。まだ乾杯が済んでいない。真面目な話は乾杯が終わった後だ。それまでは、そうだな。下界に来て見かけたセクシーな女性の話でもしてあげよう。それはもう凄くてな……」
神村さんはドスケベだった。ただのスケベはない。ドスケベであった。この人に相談して大丈夫かな……?
「で、そのアレがもうアレで、アレがアレでな……」
「お待たせしました、烏龍茶です。ごゆっくりどうぞー」
「思わずアレがアレして……、おや、飲み物が来てしまったようだ。君も続きが気になるだろうが、今日の主役はあくまで君だからね。では乾杯して、本題に入ろうか!」
確かに、話を聞けば聞くほど気になってはきたが……。
「一応我々は元神様だ。真面目な話は人々に聞かれないように注意しよう。まぁ、聞かれたところで信じる者なんていないだろうし、頭のおかしいおじさん同士の話だと思うだろうがね」
「たしかにそうですね。知らないおじさんから、「私は元神様ですよ」なんて急に言われたら、気持ちが悪いですもんね」
「はっはっは! そうだろう? では、改めて。元神様同士。下界での再会に、乾杯!」
「か、乾杯!」
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