『下界の神様奮闘記』第30話「神様とこの街①」
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「神山さん! 神鳴山(かみなりやま)の山頂までドライブに行きましょう!」
この年で筋肉痛になるとは思わなかった。痛みがなかなか引かないし、居酒屋の仕事にも若干支障を来している。
唯斗くんと「本気」のキャッチボールを交わして早3日。50過ぎの身体のキャパを超えた動きを繰り返した結果、神も驚く程の筋肉痛を抱えてしまった。特に肩。五十肩なんてレベルではない。
しかし、ほぼ全身が筋肉痛になってしまった代わりに、また一つ天界に関するであろう有力な情報を得た。凪沙ちゃんが道路に飛び出した猫、すき焼きを身を挺してトラックから守ろうとしたあの「事件」。
凪沙ちゃんが唯斗くんと遊んでいた場所から、すき焼きが飛び出した道路までは距離がある。よほど凝視していない限り、猫が道路に飛び出したことには気が付きにくいだろう。
しかも、凪沙ちゃんのお姉さん曰く、唯斗くんは目を離すとすぐに一人行動をしてしまうやんちゃな子のようで、それを知っている凪沙ちゃんは唯斗くんから目を離すことは基本的にしないらしい。
このような条件下にも関わらず、凪沙ちゃんによれば、なぜかあの時だけ猫が道路に飛び出した感覚がして、思わず唯斗くんから目を離し、道路の方を振り返ってしまった。まるで「何らかの力」が働いたような感覚だったという。
もちろん、世の中は何が起きるか分からない。なにしろ、神様が天界から下界に落とされることがあるのだ。俺みたいにね。故に、これらを偶然で片付けてしまうことは何もおかしくないし、不自然でもない。
ただ、やはり引っかかるものがある。決して無視できない、何か大きなものが。
身体を動かすたびに節々の筋肉痛が我先にと主張してくる中、それを忘れる程考えに考え抜いた。脳が千切れるくらい考えるとはこのことか、というほどに考え抜いた。
しかし、所詮は50過ぎのおじさんの脳味噌である。何度もプシューと煙を上げるように思考回路がショートしてしまう。あともう少し。もう少し確証のある情報を得ることが出来れば……。
そんな最中、先程の凪沙ちゃんの発言である。この街で一番標高の高い神鳴山の山頂まで行きたいとのことだった。一人では寂しいので、暇そうな俺を誘ったとのこと。考え事をしているので決して暇ではなかったが、凪沙ちゃんから見ると暇してるように見えるのだろう。
たしかに、傍から見る俺は、しばし上を向いてぼーっとしているおじさんなのだ。見る人によっては危険なおじさんと思われるかもしれない。
考えすぎて凝り固まった脳を一旦リフレッシュするにも丁度良い。俺は凪沙ちゃんの誘いに乗ることとした。
「急に山へ行きたいなんて、どうしたの?」
「専門学校から絵の課題を出されんたんです。自分の好きな風景画を描いてきなさいと」
「凪沙ちゃん、山好きだったっけ?」
「山の絵じゃないですよぉー。神鳴山の山頂からの景色は有数の絶景ポイントなんです。そこから私たちの住んでいる街が一望できるので、その風景を描きたくて」
「へぇー、そうなんだ。それはたしかに良い風景画になりそうだね!」
「私は生まれ育ったこの街が大好きなんです。多分に漏れず、この街も過疎化や少子高齢化が少しずつ進んでいますが、地方には地方の良さがあると思っています。たとえ人口が減ったり、街が衰退していったりしても、昔ながらの街並みや人の絆は絶対に無くならない。無くなっちゃいけないんです。だから私は、この街を描くことでその風景を心と記憶に残しておこうと思いまして」
凪沙ちゃん、おじさん泣きそうだよ。良い子過ぎるだろ、凪沙ちゃん。晴人くんや唯斗くんも見習いなさいよ全く。
「というわけで、神山さんも絵を描きましょう! レッツ、お絵描きです!」
「……え? 僕も?」
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