『下界の神様奮闘記』第38話「神様と神様①」

前話・第37話「神様とこの街⑧」はこちらから!

合間に書いた番外編・「神様とクリスマス」も、興味があればぜひ!

もし興味がわきましたら、第0話「あらすじ」から読んでいただけると嬉しいです!



「天界でのあの事件」に関する情報もだいぶ集まり、俺は1つの仮定を導くに至った。

 それは、この事件は偶然起きたのではなく、全て計画的に行われたものであると。

 この過程を導くに当たって、俺は改めて3つの出来事を整理することにした。
 まず、この街では野生動物の保護活動が進み、数年前から野良猫を見かけることが無くなったにもかかわらず、凪沙ちゃんが野良猫、今のすき焼きを見つけたこと。
 次に、道路に飛び出した猫と、それを見つけた凪沙ちゃんとの間には距離があった上、遊んでる子供から基本的に目を離さない凪沙ちゃんがその瞬間だけ道路の方を振り向いてしまったこと。
 そして、タイヤがパンクしたり、ドライバーがハンドルを切ったりしたわけでもないにも拘わらず、トラックが不可解に凪沙ちゃんとすき焼きを避けるように軌道を変えたこと。

 これら3つは全て偶然に起きたのではなく、人間の力では到底起こすことの出来ない「何らかの力」が働いているに違いなかった。

 このうち、あの瞬間にこのような力を同時に働かせることが出来たのは、俺が知り得る限りでは1人しかいない。いや、神様だから1人とは言わないか。

 神楽である。

 あいつは、あの時「下界で、一匹の猫がトラックに轢かれそうになりました。それを人間の女性が助けようとしたのですが、このままだとどちらも轢かれて死んでしまう。それをどうしても見逃すことが出来なくて、ついトラックの走る軌道を変えてしまいました……」と言っていた。

 つまり、情を入れることは御法度である区域担当神の業務にもかかわらず、人間と猫を助けたいという情を入れた結果、神楽がトラックの走る軌道を「意図的に」、つまり神の力を利用して変えてしまった。

 天界の神様は情を入れるか入れないかに関わらず、天罰を下す時など一部の例外を除いて、神の力を利用して下界における「事実」を捻じ曲げてはいけない。神楽の罪はあまりにも大きい。

 結果として、教育担当の俺が神楽の罪を被り、下界に落とされてしまったのだ。

 ……と、俺は思っていた。しかし、それは半分当たりで半分間違っていた。

 俺が推測した3つの事象のうち、神楽が自白したのは3つ目の「トラックの軌道を意図的に変えた」ことのみ。その理由は「人間と猫が死ぬのを避けたかったから」という、なんとも優しさ溢れる情の入れ方であった。

 しかし、実際には「俺を下界に蹴落として、俺から地位を奪いたい」という、優しさとは真反対の悪意に満ちた情を入れ込み、その理由で神の力を使っていたのだ。しかも、3つ目だけでなく、「3つの事象の全て」に。1つでも情を入れ込むことの罪は大きいのに、3つもとなると、これはもう罪の大きさどころの話ではなくなる。弁護の余地もないだろう。

 結果的に神楽は、天界における絶対的なルールを2つも破っていることになる。
 1つ目は、一部の例外に当てはまるわけではないにも拘わらず神の力を利用して「事実」を捻じ曲げていること。
 2つ目は、そこに全て情を入れ込んでいること。

 問題は、なぜ神楽がこんな事をしたかということである。
 このことについては、まぁ神楽の性格を考えれば容易に予測がつくのだが……。

 神楽はとても優秀な新神だった。業務を覚えるのが早く、自己研鑽も欠かさないと言っていた。あいつは、まさに「神がかり的」な才能を持つ新神だったな。
 そんな真面目で優秀な神楽のことだ。おそらく、出世欲が強かったのだろう。早く業務を覚え、結果を出し、区域担当神の中でも上の地位へ上がりたかったに違いない。

 そして、今考えればだが、あの時の神楽の発言で気になる点があった。
 それは、情を入れて事実を捻じ曲げるというルール違反を犯した結果として、俺と神楽の元に上層部がやってくることになった際、その直前に放った「本当に申し訳御座いません。特に神山さんには多大なご迷惑をお掛けすることになります……」という発言である。

 新神なのに、なぜペナルティの内容を知っているのか? 
 なぜ、自分の心配よりも先に、俺が下界に落とされることを心配して謝罪しているのか。
 これではまるで、自分が不祥事を起こすことで俺が下界に落とされることを事前に知っていたことにはならないか?

 この発言から推測するに、これら一連の出来事というのは、自分がルール違反を犯すことで俺に迷惑がかかること、つまり、こうすることで俺が責任を取って下界に落とされることを「最初からわかっていた上での」計画的な行いだったのだ。

 俺を下界に蹴落とすことで、まずは俺の地位から奪おうとしたのか。ふん。やるではないか。今に見とけよ神楽。天界に戻ったらアレがアレだからな。今は思いつかないけど。

 まだ仮定に過ぎないが、だいぶ真相に近づいてきたと思う。
 しかし、ここに来て俺は新たな問題に直面していた。それは、このことをどうやって神楽や天界の上層部に伝えるかだ。
 俺は今下界にいる。未だかつて、下界の人間が天界の神様と連絡を取ったなんて話を聞いたことがない。当然である。天界と下界を繋ぐ連絡手段なんて無いのだ。
 なんで今までこのことに気が付かなかったんだ……。

 困ったなぁ……。実に困った……。

「神山さーん!」

 凪沙ちゃんの声がする。すまないが、今は取り込み中だ。大事な考え事をしている。後にしてくれないか……。

「神山さーん! 5番テーブル呼んでますよー! オーダーお願いしまーす!」

 あ、今仕事中だった……。




次話・第39話「神様と神様②」はこちらから!

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