The Girl with Seven Names~Escape from North Korea~
『七つの名前を持つ少女~北朝鮮からの逃亡~」
Hyeonseo Lee著。
北朝鮮で生まれ、育った17歳の少女が北朝鮮を出る話。
出たくて出たというよりも、様々なアクシデントが重なって、北朝鮮を離れるしかなくなった。国を超えて生活したりする中で名前を7回も変えたんだって。
時系列に沿った教科書のような書き方なので比較的読みやすい。
北朝鮮にいた時の描写がリアルで興味深い。
どの家にもDear Leader(当時はキム・イルソン)の絵が飾ってあって、時々それがほこりなく綺麗に保たれているか検査しに来る役員がいるらしい。
外国の音楽を聴くのも許されていない。近所でそういう音楽が聞こえると通報されたりする。
幼稚園の壁にはキム・イルソンやキム・ジョンイルの大きな絵が描かれている。
「こりゃイヤだな」と思ったのは、小学校や中学校のホームルームでクラスメイトが「良くない」ことをしたことを毎日報告しないといけない習慣があること。たとえば、「~さんが勉強をさぼってました。」とか、些細なこと。それでも、クラスメイトにみんなの前でそんなこと言われたらいやな気持になるし、今度はやり返してやろうと粗探しをする。クラスメイトを非難したくない時は、自分の悪いところを報告することもできる。
彼女のクラスで、「前に持っていなかったものをたくさん持っていた。それを買うお金はどこから来たのか?」と責められたクラスメイトの家に役人が調査をしにきて、韓国(大韓民国)へ逃亡した兄から仕送りをもらっていると判明したその家族はそのまま逮捕されたらしい。
互いに監視し合うこと、または自分で自分を批判することで、自分に対する自信を失わせて、外の世界に対する興味や憧れを削ぐ。1974年からずっと続いているという。悲しいやり方だ。
北朝鮮を出てからは中国で身元を隠して働き、その後は韓国への移住を決意する。17歳の時に北朝鮮を離れてから、ずっと会えていなかった母親と弟も韓国へ移住するよう促すが、その逃亡の道のりは長く、過酷であった。
そんな感じのお話。
友人が途中で読むのをやめた本をもらって読んだのであまり期待はしていなかったのだけど、想像以上に波乱万丈でおもしろかった。
ただ逃亡するだけで、ありえないほどの金額を支払っているし、何度も命の危険に瀕している。そもそも逃亡する人も、「自由を求めて」逃亡しているのではなく、食べるものがないから、とかそういう一次欲求的な理由で逃亡する人がほとんどだという。「自由」がどんなものか、北朝鮮に住む人は知らない、と彼女は話す。
友人にこの話をしたら、「でもそこに住んでる人はそれが普通なんやろ。じゃあ良いやん。」と言っていた。うーん、そうだけど、そうじゃないよ。
人権の中心にあるのは、たぶん、選択する権利だ。
私は日本にいながら、北朝鮮に暮らす人々のように禁欲的な共産主義者になることができる。どんな思想を持っていても許されるからだ。
でも北朝鮮で、民主主義的でリベラルな政治を支持することは死刑に値する。それはあっていいことではない。なにを選択するかは個人の自由だけれども、その選択肢は誰にでも与えられなければならない権利だ。
と私はおもう。
北朝鮮に住む人々の人権ってすごく見えにくい。テレビで綺麗に整列して歩いていたり、リーダーのことを崇拝しているのを見ると、好んでああいう環境にいるかのように思えてしまうからだ。
アフリカで飢饉に苦しむ子供のことが取り上げられ、人々が憐れむってのはよく見るけど、北朝鮮でも何万人もの子供が飢饉のせいで道端で亡くなっていることを、世界は(特に日本は)あまり知らないのではないだろうか。私も気にかけたことがなかった。
同調圧力というのだろうか、閉鎖的な空間における思想というのは非常に定着しやすく、抜け出しにくいものだと思う。
政治的にさまざまな問題があり簡単には着手できない話なんだと思うけれど、外からのアクションも必要だろう。
まあだから何って話なんだけども、とにかく私の目がまた少し開かされたというお話です。
作者はTedでも自身の経験を話している。
https://www.youtube.com/watch?v=PdxPCeWw75k
おしまい。