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はるるんの福祉クエスト

はるるん、先日8歳の誕生日を迎えた。
誕生日前日深夜に帰国し、誕生日翌日にはまたフィリピンの自宅へ、という超強行スケジュールだったけれども家族みんなでお祝いすることができた。

彼女が生まれた8年前、出産した病院で何枚もの同意書にサインをしながら、先の未来なんてまるで思い描けずにいた。
ただ毎日やってくるトラブルをドッチボールのように体をくねらせてよけたり、時には正面から受け止めたりしながら、必死で生活を切り開き、気づいたら8年もたっていた。

誕生日に合わせてハルと夫が帰国した一番の目的は、上棟式。
ハルも含めて、家族6人で心地よく暮らせる家を建てたいと考え始めたのは、コロナ禍のインドでロックダウン生活を耐え忍んでいた2020年だ。

ハルはお風呂が好きだから、大きなお風呂がいいね
せっかく田舎に家を建てるなら、窓を開けて風呂に入れる場所がいいね
長男は本の虫だから、本棚がたくさんあるといいね
薪ストーブをつけて、自然に人が集まる場所がいいね
ハルが指先で描く絵を飾るスペースがほしいね

楽しい想像をしないとやっていられなかったから、日本に家を建てる話をして、精神衛生を保っていた。
家を建てるなんて、ハルが生まれる前は想像もしていなかったけど、車椅子のハルとの未来を考えると、家の存在意義は大きいような気がした。

夢物語だった「家を建てる」が2年越しに実を結び、ハルの8歳の誕生日に、ついに上棟式を迎えた。

施主として挨拶をした夫の声は、思いがけず震えていた。夫が涙をこらえるのは、私の記憶が正しければ多分、8年ぶり。ハルを出産する前、なぜか胎内で成長が止まってしまい、不安で押しつぶされそうになりながら唇をかみしめていた夫はでも、ハルが生まれてからは一度も泣いていない。無事にといえるのかわからないけれど、命をつないで生まれたハルが愛おしくてたまらない夫は、それからいつも幸せそうだったから、私も泣くのをやめたのだ。

紆余曲折、波乱万丈の我が家のこれまでを、ぜんぶまとめて吸い込んでくれるような青空と、美しく組まれた立派な骨組みを目の前に、責任と喜びがないまぜになったのかもしれない。

家が完成したら、家族でどんな暮らしをしていこう。
今回は、そんな日本での暮らしを思い描きながら感じた、様々な福祉制度上の違和感について書いていきたい。

小児用車椅子”バギー”は超高額

我が家の次女ハルは、うまれつき脳性麻痺があり、自分の力で首を起こすことも座ることもできないため、小児用車椅子、いわゆるバギーが必須だ。知らない人も多いと思うので、このバギーのとんでもなく高額な価格について少しだけご紹介したい。

ハルがこれまで使ってきたピンクのバギーは、1歳になってすぐにつくった。最低限度のスペックで購入したのだが、それでも15万円程度。ベビーカーと間違われることがよくあるが、普通のベビーカーの10倍くらいする高額なバギーである。コンパクトで小回りがきいて、海、山、インドにも、家族とともにハルをありとあらゆる場所に連れて行ってくれた。

山の中にも突っ込んでいくバギーのハル

ちなみに、バギーは通常購入補助を受けることができるが、他の補助具同様、所得制限がある。この所得制限については、家計の主たる収入を担う人の金額が基準とされている。つまり、夫婦共働きの合算で高収入でも、主たる家計の担い手の収入が基準内であれば、補助の対象になるらしい。子ども手当の所得制限撤廃でホットな話題だとおもうけど、制限するなら家計全体として考えたほうが良いのではないかと思うのだけど、どうだろう。

その後購入した2台目のバギーは、必要になった機能をいくつか加えて購入したら、総額30万円強。ニーズが少ない分、どうしても高額になってしまうのかもしれないが、それにしたって高すぎる。補助がなかったらとてもではないが手が出ない。新しいバギーは深さもあって大きくなったハルの身体もすっぽり包こんでくれ、適度にコンパクトで大変快適だ。

ちなみにこれは余談だが、車椅子や座位保持装置とよばれる肢体不自由児の生活補助具についての知識は、医療職の方でも知識差がすごくある。もちろん親御さんも熱心に研究していたりアンテナが高い方はとても詳しいしこだわりの装具を作ったりしていらっしゃるが、私はかすみ程度。

たとえば拠点となるような大きな養護学校があったり、地域をひっぱる療育施設があったりすると、いろいろな事例もあるし、みなさん知識が豊富な模様。担当する医療者の方の熱量や知識量というのも、影響するのかもしれない。どんな地域でも、どんな場所からも、欲しい情報にスムーズにアクセスできる仕組みができたらいいな。

そういえばインドで通っていた特別支援学校では、小児用バギーに乗っている子なんてほとんどいなくて、ベビーカーにいろいろ工夫して乗っていた。ハルが乗っているバギーをみて、「ねえ、そのバギーは一体どこで買えるの?教えて!」と聞かれたので会社のサイトを教えてはあげたけど、日本の会社だし、英語ページないし、そもそも超高額だし。日本の地域という意味でもそうだけど、世界のどんな場所からも、必要な情報や必要な機器が手に入るようになったらいいなと思う。

とりあえず、私は8年肢体不自由児を育てているけどちっとも詳しくない。誰か教えて。

小児でも入浴用リフトを入れたい

脳性麻痺児の特徴として、筋緊張というのがある。文字通り筋肉が緊張してしまい、それをコントロールできないため反り返ったり無理な姿勢になってしまったりする。ハルもやはり、状況によって強い緊張が走ることがあるのだけれど、そんな彼女にとって、水は心強い味方だ。プールでもお風呂でも、水に入ると途端に緊張が緩み、リラックスした表情になるし、怒って泣いているときでも、お風呂に入ると落ち着くことがしばしば。何よりも風呂に浸かったときのハルは、この上なく幸せそうな表情をする。

訪問入浴や介護事業所での入浴サービスなども使えるのはありがたいけれど、彼女にとって至福である毎日の入浴を、できれば家で、家族で一緒に楽しませてあげたい。でも、ハルの体は容赦なく大きくなり、私も夫も容赦なく年をとり、年々腰への負担は増すばかり。そこで導入を考えたのが、入浴用の天井走行リフトである。

まずは情報を集めようと思ったが、入浴用の天井走行リフトを導入しているお宅はほとんどみつからず。導入していてもお年寄りのいるご家庭がほとんど。というのも、この入浴用天井走行リフトは、改修工事の場合は設置費用が補助の対象になるが、新築の場合は対象外になるのだ。(※天井走行ではない移動用のリフトは補助対象になるようです。詳しくはお住まいの地域の福祉課に問い合わせてください。)

こうなると、高額な導入費用はかなりのネックになる。
ちなみに、新築の場合でも、建ててから1年後に改修費用として申請すればOKなのだとか。なんだそれ。

病院で入浴用リフトに試乗するハル

地域の基幹病院にいけばリフト自体は見せてもらえるけど、小児用のシートはおいてない。あとから聞いたら近くの業者さんにいけばサンプルがあったらしいけれど、病院ではそういう情報もわからなかった。

お年寄りの介護に必要な環境や設備を考えることと同時に、赤ちゃんの時期から長く過ごしていくことになる障害児の環境整備についても、社会全体としてもう少し考慮してもらえるようになっていくと嬉しいなぁ。

地方在住障害児家庭には福祉車両が必要だ

日本の地方都市で生活するとなると、まず必要なのが車だ。先日、地方の生活保護受給者が車の保有を認めてほしいと訴えたことが新聞記事になっていたが、当然だと思う。地方での車は、歩くときに必ず履く靴のようなもので、それがないとどこにもいけない。

我が家では、これまで中古のセレナのトランクにバギーごと力で持ち上げて乗せていたが、体重が重くなってそろそろ持ち上げるのも限界となり、スロープ付きの車椅子用福祉車両の購入を検討した。もちろん座位保持機能のあるチャイルドシートを設置して、そこに子を乗せ、バギーを畳んでトランクに乗っけるという方法をとれば必ずしも福祉車両でなくともよいが、ワンオペで移動するとなると毎回そんなことをして乗り降りするとなると気が遠くなるし、バギーの乗せ下ろしもまあまあ力仕事だ。しかも、子はハルだけではない。

試乗した福祉車両

ところが、障害児のいる家庭が福祉車両を購入する費用は補助が出ない。障害者登録をすると車両の自動車税は減免税があるが、福祉車両はそもそも通常の車両に比べると100万円くらい高い。消費税免税があるのはありがたいけれど、結局あんまり意味ないような。

こちらも小児用車椅子と一緒で、ニーズが少ないから価格が上がってしまうという事情があるのかもしれないけれど、一番最初にとった福祉車両の見積もりはなんと480万円だった。なにそれものすごい高級車じゃん!!見た目は超庶民のバンなのに!ベンツ並じゃない?ベンツ知らんけど!

家も建てるというのに、そんな高額な車は買えない、ということで、中古の福祉車両を毎晩目を充血させながら探したのだけれど、なかなか状態がよいものは見つからない。良さそうなものは北海道とか遠くの中古車会社が買い占めていたりして、見に行くのも難しそうだ。

福祉車両については、そもそも試乗できる店舗がとても限られていて、基本的には遠方まで足を運んで乗りに行かなければいけないし、そもそも選択肢がとても少ない。今回、バギーの大きさ・車高の高さ・幅・スロープの長さなど、様々に検討したので別途記録に残しておこうと思う。

生活保護受給者の車保有の例しかり、あらゆる制度が霞が関中心に決まっているような気がしてしまうのよ…でもね、霞が関のみなさんは頭がいいから知ってると思うけど、東京以外の日本のほうが、遥かに広いんだよ。

ヘルパーは小児用の制度ではない?

さて、こちらは地域性がかなりありそうな内容なんだけど、いずれ新居に転居して、ハル含め4人の子供とワンオペ生活をすることを想像して一番詰んだと思ったのは、朝。

6年生になるので残り半年最後まで今の学校に通いたい長女は半年間送迎してなんとか希望を叶えてあげたいし、一番下の子もまだ保育園。加えてハルは養護学校まで送っていかなければならない。そもそも、朝ハルを起こしてハル用にペースト状の食事を準備して食事介助をしてハルの出かける準備して、同時に他の子の面倒も適当に見て、みんなまとめて車にのせて出発、っていうのを朝の7:00すぎまでに完了するのはちょっと私には無理ではないか、、、と思ったので、助けを求めて福祉課の門戸を叩いた。

障害児の親御さんのブログとかをみると、ヘルパーさんを普通にお願いしている方も多くいるので、私もヘルパーさんを使わせてもらえないかと思ったのだ。

ところが、そこで教えていただいた想定外のお話。ヘルパー事業というのは、18歳以上の成人した障害者または高齢者を想定しているもので、小児の場合は基本的には支給決定は降りないという。なぜなら子どもというのはそもそも親が面倒をみるのが当たり前だから。それができないとなると、児童相談所案件になるという話だった。

衝撃だった。
だって18歳以上も以下も、介助の内容は同じだし、むしろ18歳以下の今のほうが、きょうだいたちの子育てもあるし、忙しいんだけどな…
それにしても児童相談所かぁ…そういうことじゃ…ないと…思うんだけどな…いや、わからん、児童相談所って、何だっけ…

どうやら介護事業所も人材不足で、現状でもカツカツな状態であり、もし利用できたとしても1回30分が限度なのだという。これはあくまでも我が地域の話であり、東京など財源が豊かな自治体はこの限りではないらしいけれど、そうなんだって。

この話が決定的となって、私はハルを来年度から頑張って学校に行かせる気持ちを一旦放棄した。とりあえず今は夫と一緒に海外に住むことはできるわけだし、「教育を受けられていないなんて!」と怒ってくれた就学支援専門員のU先生の気持ちはとても嬉しかったけれど、生活を組み立てられないのにハルに教育をうけさせることは不可能だ。家族はハルを中心に回っているわけではなくて、それぞれの事情や気持ちのバランスをといっていかなくてはならない。他の子達の状況が変わって、朝のto do が減るのを待ってからハルを呼び戻せばいいかもしれない。

私の場合はそういう選択ができるからまだ良いけれど、例えばひとり親家庭だったり、やんごとなき理由でどうしてもヘルプが必要な障害児の親御さんは、一体どうするんだろ…。子は親がみて当たり前だから、頑張って無理をして面倒をみて、心か身体かが壊れて「親が育児をできない状況」として認定されてはじめて助けてもらえるのだとしたら、遅すぎると思うのだけど。でも、今の不十分なリソース配分では、そうなってしまうのだろうか。

なんかこれは、根源にものすごい問題が横たわっている気がするんだよね。介護や福祉に関わる人達の地位の低さなどからくる就職人口の低迷とか、それの原因になっている教育や国の予算とか、、、なんかもう、私一人では扱えない大きいやつが、ここにいますけど〜!誰か〜!

福祉手当はインドの野菜スタンド

福祉課の方に丁寧に話を伺って、日本での障害児支援の福祉についてようやく少しずつ見えてきた。(みんなは当然知ってることなのかもしらんけど、本当遅ればせながらですみません)

で、とにかく福祉課の方の知識がすごいな、と思った。私も勉強しようと思って聞いてみたら、「刻一刻と法律や制度は変わるので、そういうのを勉強するより、困ったときに困ったと正しく伝えられることの方が大事ですよ」と諭されてしまった。

それもそう。だけど、困ったときに困ったと伝えてなにかしらのメリットがあるかどうか、それができないならどういう背景があるか、私は普通にしりたい。

ちなみにヘルパー事業の代わりに利用できるサービスとしては、「タイムケア事業」というものがあると教えてもらった。これは、特に資格がないご近所さんや友人知人に、対象となる障害児のケアを必要なときにお願いして、その時間分だけある程度の賃金を自治体が支払ってくれるというもの。年間300時間まで利用できるという。

どの程度の賃金を支払ってもらえるのか聞いてみると、「障害児特別手当」を受給している場合は、特に重度であるという判断から1時間650円程度。同手当を受給していない場合は、1時間450円程度だという。普通に最低賃金とかを想像していたのでこの微妙な金額にどう反応したらいいのか戸惑ったのだけれど、それよりもこの手当って何よ!というところに反応してしまった。

よくよく調べれば多分うちのハルは対象になるであろう「障害児特別手当」。医師の診断書を元に申請すれば、月々1万4850円の手当を支給されるという。そうなんや。

そしてさらによくよく調べると、ハルは「特別児童扶養手当」というのにも該当しそうで、これは認定されれば月々52000円支給されるという。

今まで一度も案内されたことなかったなあ。

言いたいことは1つ。
こちらから手を伸ばさなければ届かない手当って…なんか…自分から新鮮な野菜を掘り起こさないといいものを買えないインドの野菜スタンドみたいだ。ああ、今日はあれもこれもないのか、と見た目だけで判断したが最後、実は底の方にお目当ての野菜が眠っていたり、新鮮でいいのが隠されているのがインドの野菜スタンドの常。福祉手当は完全にそれや!

いいこと言ったな私!って…いやいや。もっとちゃんとわかり易い場所に陳列してくれー。
いや、調べない私が悪いんだけど。
でも、自治体窓口、病院、療育園、いろんな場面でチャンスがあったよね。知るチャンス。教えてもらえるチャンス。
世の中って優しくないんだね…


以上、つらつらと書いてみた。ハルが生まれたとき、彼女と共に生きるとはどういうことなのか全然わからなかったけど、こういうことなのか、と8年たってようやく分かってきたということなのだと思う。

出産して、みんなが命を救う方向に血相変えて全振りしてたんだけど、あのとき「ねえ、それで、この後この子はどうやって生きるの?」って、本当は私、聞きたかった。だけど、誰も教えてくれなかったし、そんな質問を投げかける雰囲気じゃなかった。

でも、本当は、そういうことこそ、必要なんじゃないだろうか。つまり、生まれてくる一つ一つの命に対して、社会がどう受け止めていくのか、どう助け合えるのか、どういう未来の選択肢があるのか。それが、「福祉」の入り口にあるべきじゃないんだろうか。

なにもわからずに救っていただいた命を両手に抱え、途方にくれていたかつての私のような誰かのために、微力ながら、書いておく。

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