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そこに「在る」生活を知りたい(パプア滞在記④最終回)

セブンイレブン。ユニクロ。無印。DAISO。マクドナルドにKFC、スターバックス。イケアにH&M。

なんの名前か?

ここ数年で夫の赴任先となったインドにもフィリピンにもあった世界に展開する店舗である。10年以上前に1年だけ住んだタイにももちろんあった。インドはそれなりに買い物も大変だったけれど、それでも日本食屋さんもあったし、困ったら少し高くても知った名前のお店に行く事ができた。

それが、パプアニューギニアの首都ポートモレスビーには一つもない。
今や全世界に知られていると思っていたマクドナルドもKFCも見当たらない。(それっぽいパクリ店は見かけた)治安を懸念して歩き回ってはいないので、あくまでも車窓からの情報しか見ていないけれど、例えば服屋なら”CLOTHES SHOP”と大きく書かれた半野外のような小屋があるのみ。ユニクロもGUもない。

比較的治安が良い夫のアパート近くにあるショッピングモールに入っているのは、ローカルカフェやローカルバーガーショップ。服や靴を買うのに困りはしないが、見たことがないお店が並ぶ。そして、物価はそれなりに高い。日本で私が暮らしている時に買う服や雑貨の値段を想定すると、倍ぐらいするし、気軽にポテトチップスを買い物かごに入れようとすると、1袋800円位する。

スーパーの中のイートインコーナー。ローカルカフェはあったけれど、マックもスタバもない

なぜだろう。少し調べてもよくわからなかったけれど、治安の悪さゆえなのかもしれない。街中を探せばいろいろとあるのかもしれないけれど、例えばおいしくて手頃なベーコンとか、餃子の皮とか、フレッシュなほうれん草とか、子供向けの安くて安心できるおもちゃとか、ラーメン屋さんとかうどん屋さんとかピザ屋さんとか、「あったらいいのに」がたくさんあって、ある意味でビジネスチャンスの宝庫だと感じた。

ベーコンは1袋4枚入って25キナ≒1000円、、、高すぎて買えなかった。

なかでも一番びっくりしたのは、あんなに日本でみかける「パプアニューギニア産」のえびが、現地で超高額だったこと。他の海産物も軒並み高いし種類もすくない。高級スーパーだからかもしれない、と思い、現地のさかな市場に足を運んでみることにした。

その名もKoki Fish Market。ポートモレスビーの海沿いに位置する魚市場で、毎朝6:00から開店し、その日とれたフレッシュな魚がずらりと並ぶ。夫の同僚によると、あまり安全な場所ではないらしいが、外国にきて外国人向けのスーパーで買い物をして車で移動しているだけなのもつまらない。何より夫はどんな場所に行こうと自ら仕入れて寿司を握るほど大の海産物好き。

行かない手はない!

自宅から15分ほど車を走らせると、見えてきた景色は伊豆とか葉山とかそんな雰囲気。葉山、いったことないけど。

ちなみにポートモレスビーの市内はほとんどの交差点に信号がない。交差する道の真ん中に「ラウンドアバウト」と呼ばれる環状交差点があるのが主流だ。よく停電するから信号じゃないほうがいいのかな?運転する慎重派の夫はラウンドアバウトに差し掛かるたびに緊張していた。みんな遠慮なくずいずい進むんだもの。仕方ない。

というわけで、道を間違えながら「怖い!」「話しかけないで!」と言う夫を横目に街並みを楽しむこと20分、フィッシュマーケットについた。

息子がさらわれないようしっかり手をつないで入場

貴重品はなるべく持たず、いつも来てますけど、というふうを装って訪れる。入口には、買った魚を入れるようにビニール袋を売る人が何人かいた。1キナ=40円なので、1枚あたり40円〜80円だ。

幸い準備の良い私は家からビニール袋を持ってきたので素通り。海をみるとゴミが沢山浮かんでいた。お世辞にもきれいな海とは言えなそうだ。

反対側では子どもたちが思いっきり海にダイブして水浴びをしている。

訪れたのは朝の8:00頃だったが、中は人でごった返していた。床にも台の上にも、それぞれが獲ってきたであろう魚が所狭しと並ぶ。

生臭いにおいが充満していて、7歳の息子はすぐに「え、ぼくちょっと戻りたいかも…」と言っていたが、フレッシュな魚の姿を見るとすぐに生気を取り戻した。

立派なイカにアジ、キンメっぽいやつ、かさごっぽやつ、とびうおっぽいやつ。そしてマグロ。どれも安くて新鮮だ。きわめつけはこれ!

ロブスター。日本ではめったにお目にかかれないが、あちこちでみかけた。こいつら買うな、と思われた我々、いろんなおっちゃんに声をかけられたが、結局最初に声をかけてくれたおっちゃんから2尾50キナ(≒2000円)で購入した。現地の人と行けばもっと安くなったのかもしれないけれど、日本人の感覚からすると十分安い。結局日本でよく見る「パプアニューギニア産のえび」みたいなエビは、フィッシュマーケットでも見かけなかったけれど、格安ロブスターには出会えたので良しとする。

ちなみに滞在記③でも触れたが、パプアの人たちはブアイと呼ばれる植物ベースの嗜好品を大変好んでいる。親指の先ほどの緑色の実がブアイ。その種を噛み砕きながら、マスタードの果実であるダカという木の枝のような形状のものにカンバンと呼ばれるパウダーを付けてダカごとかじると、口の中で真っ赤に変化する。カンバンというのは石灰のことで、みんなマイパウダーを持ってるらしい。

マーケットに行くまでの道中でも信号待ちのタイミングで路上のブアイ売りから購入している現地の人を何人かみかけたけど、マーケット内でも何箇所かでブアイ売りを見かけた。

魚売り場に並んで売られていたブアイセット

マーケットの中では子どもも口を真っ赤にしていた。守衛さんもお店のスタッフも、だいたいどこにいってもみんな口はまっかっか。ちなみに口が真っ赤になったあとは、みんなところかまわず「ぺっ」と吐き出すので、街中に真っ赤な血の跡みたいなものが点在している。

さて、マーケットで購入したのはこちら。

photo by 夫

伊勢海老はすぐに半生で。(夫氏調理)
遅い朝ごはんにぱくつく我々。ぷりんぷりん。うますぎる…!!

マグロ?かカツオ?かよくわからないけどそれぽいやつは、片栗粉をまぶして揚げ焼きにして、甘辛いタレと絡めた。(私調理)これもうまし。

生臭さがあったので濃いめの味付けにしたマグロかカツオ(どっちだ!?)

知らない場所にいって現地の人たちの生活にふれることができるのは心が踊る。治安の悪さ故に行ける場所や移動手段が限られているとなかなかそれが難しかったのだけれど、フィッシュマーケットで少しだけそれが叶った気がした。

私自身は元々ガンガン海外旅行とか行けるようなタイプではなく、基本的には夫についてまわるだけの人だけれど、行く先々で、その場所で営まれている暮らしを知るのは勇気づけられる。日本は確かに綺麗で清潔で安全で便利だけれど、不便な場所や空気が汚い場所にも歴史があり、人が住んでいて、見栄や野心や希望や絶望や、いろんな思いがそこには渦巻いている。良くも悪くも、確かにそこにそれぞれの暮らしが「在る」と思うと、自分の生も肯定してもらえるような気がする。

治安が悪いと言われているけれど、今回の滞在で出会った現地の人たちは、みんなフレンドリーで優しかった。
「治安」ってなんだろう。
因数分解すると、結局は人にたどりつくんじゃないのかな。

(終わり)



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