終点

永久氷床でつくられた砂糖菓子のかけらをひとつ、口の中へ放り込む。
腹の底が一瞬ひんやりとする。その後、口の中に鈍い甘さが広がってゆく。
私は首に下げた双眼鏡で海面を眺め、手早くスケッチをとりはじめる。
(本日の冬空は快晴、風はよわく波はおだやか、湾内の永久氷床の数は百三十二・・・)

遙か遠くの大地で溶け出した永久氷床は、多角形の断片となって洋上へ漕ぎ出し、海流に乗って移動を始める。
やがて、この港町へとたどり着く。そう、ここは終点なのだ。
そして私は、彼ら断片の最期を見届けるために用意された、一人の記録係なのだった。
永久氷床の欠片の散らばる、穏やかな海面を眺め、今日もその形をひとつひとつ丁寧にスケッチしていた。

この海を渡るために、いったいどれほどの資材が必要だろうか。
私は、大海を渡る青色の蝶の一群についての夢想をはじめた。
(私にいかだ作りの才能があれば良いと思った。そうすれば、もっと現実的な夢想を続けることができたのに。)

溶け出した永久氷床が、洋上へ漕ぎ出し、やがてこの港町へとたどり着く。
この港町にも、もうすぐあたらしい季節がやってくる。
私はこの町で、次の夏を迎え撃つつもりだ。


※ 2020年1月14日に書いたものを加筆修正