東の干潟

東の干潟に存在する無数の三角錐や、それを見守るようにして配置された二十三の鳥居、それらを見下ろし南中をつづける瓜のような太陽は、いったい誰のために用意された墓標であったか。その答えを見つけることができぬまま、私は十七度目の春の夜を迎え、いつしか真昼の月の幻覚を見るに至った。真昼の月と真昼の太陽を見分けることができなくなったのは、果たしていつのことだったろうか。あの日、東の干潟に甲殻類の骨片を集めた白い雨は、私の住む街にも降りそそぎ、庭の隅に咲く彼岸花を血の通わぬ銀細工に変えてしまった。

春の来ない干潟には、塩味を含んだ季節風が吹いていて、干潟に棲むかたい生き物たちを一日中転がしている。干潟には、かたい生き物のほかに、やわらかい生き物もいて、彼らは泥を第一の友人として巣穴で暮らしている。私が柔らかな砂地に突き立てた風車は、気まぐれに回ったり止まったりを繰り返していて、干潟の生き物の一日を見ているかのようだった。代謝をやめた生き物は、冷徹な太陽によって審判が下され、四角い紙片の上で骨片に解体される。私はその骨片を拾い集めて、都市の煤煙のなかで焼いたのだった。

第二薄暮の時刻。干潟に注ぎ込む河口のそばに立ち、夕凪のなかで耳をすまして、海風の方角を見定めよ。そして、昨晩見た明晰夢の生家に向かって、着実に遡行せよ。見よ。春の海に食われた記憶が、夢の位置から狙撃しようと息をひそめて待っている。

都市から吹きつける塩味のない風は、ひどく乾燥していて、私の肌をこわばらせる。いまだ南中をやめない太陽は、干潟の生物をことごとくほろぼそうとしていて、都市の住人たちはその企みを阻止することができないでいる。氷のような午睡の時間を打ち破るのは一体だれか。昨晩誕生したばかりの二十四番目の鳥居の影が、いつまでもいつまでも私の顔を見つめている。