RuiKawakami

趣味で詩や短歌を書いています ruikawakami.mail(a)gmail.com

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記事一覧

連作三十首 火球と巻貝

階段を入り日はそよと流れ落ち床にゆらめく光の渚 霞立つ書斎へつづく鍵穴を覗けば夜の砂丘が展く とおく焚火は白雨のうちより鳶を呼ぶ桟道歩むごとき随想 月光に蛙は掌…

RuiKawakami
5日前
6

20240903 日記のようなもの

ここ数日ともなっていた気だるさや頭痛が、日を追うごとにはっきりとしたものに感じられる。その正体と原因とを掴むことはできないまま、月は変わり、いつもより長く寝たり…

RuiKawakami
1か月前
13

雷鳴

雷鳴のとどろく草原を歩いている一匹の獣のような目。その目だけがあり、雷鳴を聞いたことはなく、それは草原ではない。 木立の間を細い尻尾が揺れ、あなたはむかし見た振…

RuiKawakami
1か月前
6

平熱

旅をしていたことがあったと思う 生乾きのサバンナ を遊泳している裸眼で 禁足地をあらう雨 をはるかに見やる 花見へ急ぐ ひとびとを抜ける ときに感ずる身熱の橋を わたり…

RuiKawakami
2か月前
9

20240707 日記のようなもの

予報に示されていた通り、本日もとても暑く、すこし窓を開けて外気に手を差し入れてみただけで、日中の野外活動は非常に困難であるということが瞬間的に分かったので、ほん…

RuiKawakami
3か月前
7

20240618 日記のようなもの

思えばここ数年は、正確な情報伝達を主目的としたまとまった散文ばかりを書いていて、エッセイのようなある種ふんわりとしたものを書いてこなかった。そろそろ何か書いてみ…

RuiKawakami
4か月前
17

仮名遣いの歴史についてのメモ

はじめにとあるきっかけから仮名遣いの歴史について興味を持ち、いくつかの文献を用いて調べていくうちに、仮名遣いの問題は広範かつ複雑であることを知った。本稿は、仮…

RuiKawakami
5か月前
23

小景

坂の上から斜面に沿って 流れている光の 途中で果実が実り ごろごろという音に変わる 見ている者の存在を 対岸に感じるが もう誰もいないだろう 月面へ向かって 開いてい…

RuiKawakami
5か月前
15

詩 Q

  どこへもいけない   どこへもいける   ここからできるだけとおくへいく   ここにいるままで   ここにいるままで 夜明け前 廃棄されたコインランドリーの数々…

RuiKawakami
8か月前
12

詩にはどのようなものがあるか――詩の種類と多様性

1 はじめに詩を読んだり書いたりするとき、そもそも詩とはどのようなものなのかという素朴な問いが、持ち上がることがある。この純粋な問いは、詩を書く人にとって重要か…

RuiKawakami
10か月前
66

海食崖

あなたの喉元に降りかかるそれは 決して綿雪などではなく 何もない海食崖 ただ正視をつづけるわたしたちの 声が消え尽きてしまう地点から 西日が低く落としている眦 その海…

RuiKawakami
1年前
9

椅子 (クヮン・アイ・ユウおよび河上類による合作)

いま叩きつぶした助詞の一つから 細く立ち上る硝煙の先端に 矢のような朝陽が差し込むとき お前のその 五指を刺すつめたい痺れから 赦しを引き出す手順を思うのは 不自由さ…

RuiKawakami
1年前
6

街と海

夕日の巨大な親指が 尾根を下ってこちらへやってくる もうじき 環形動物の夜なのだ そっと輪郭を書き留めている 書生のまなざしなのか それとも 日記を焼く二日前なのか そ…

RuiKawakami
1年前
14

連作三十首 雪明りの観測

朝雨にけぶる彼方のビル群の間を泳ぐ巨大なアロワナ 振り向けば秋の舗道を駆け抜ける銀狼の散らす落葉のあと しんしんと骨片のふる地下書庫で灯火にひらく菌類図鑑 頭部…

RuiKawakami
1年前
14

第三回 匿名文通合評会のお知らせ

概要自作の詩作品に関する建設的な意見交換を行うことを目的として、匿名の状態の参加者どうしで詩作品を批評し合う合評会です。 方法参加希望者は主催者に参加を申し込み…

RuiKawakami
1年前
4

連作十首 ある現像

巻き貝のなかから一つの幻聴を抜き取り氷の標本とする くらやみは水辺で生まれた生き物で 左の眼窩に白魚を飼う 春雷の近づく乾燥機のなかで胎児のごとく眠る子羊 白桃…

RuiKawakami
1年前
8

連作三十首 火球と巻貝

階段を入り日はそよと流れ落ち床にゆらめく光の渚

霞立つ書斎へつづく鍵穴を覗けば夜の砂丘が展く

とおく焚火は白雨のうちより鳶を呼ぶ桟道歩むごとき随想

月光に蛙は掌をかざす骨の隧道透かし見るまで

火があった あなたの頬で揺れる穂へ手渡すだろう二三の巻貝

冷えきった砂原の底に置くときの琉金の鰭のつややかな水辺

――今晩は珊瑚の小指が降るでしょう。錆びない傘と祈りの準備を――

月を孕む淡い双

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20240903 日記のようなもの

ここ数日ともなっていた気だるさや頭痛が、日を追うごとにはっきりとしたものに感じられる。その正体と原因とを掴むことはできないまま、月は変わり、いつもより長く寝たり、仕事をさぼったりしている。この得体の知れない気だるさが連れてきたのものかは分からないが、最近は何かを書きたい(あるいは書かねばならない)という気持ちがつよく、ベッド脇に放置していた詩の原稿を引っ張り出して推敲したり、積んでいた歌集を開いて

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雷鳴

雷鳴のとどろく草原を歩いている一匹の獣のような目。その目だけがあり、雷鳴を聞いたことはなく、それは草原ではない。

木立の間を細い尻尾が揺れ、あなたはむかし見た振り子時計を思い出す。しかし、そのような記憶などなく、木立の間にはあなたが立っているだけだ。

てのひらでゆっくりと回り始めた方位磁針があり、誰もがそれを止める術を知っている。ただ誰一人として止めようとせず、止める方法も分からない。

振り

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平熱

旅をしていたことがあったと思う
生乾きのサバンナ
を遊泳している裸眼で
禁足地をあらう雨
をはるかに見やる
花見へ急ぐ
ひとびとを抜ける
ときに感ずる身熱の橋を
わたり奥歯のひかりとする
ひとびとに告げて回る
ここより先は、ここより先は
陸橋の崩れる音がして
わたしたちの平熱を
かえしてほしい

すずな
すずしろ
三月のままで
ねむることができないのは
わたしたちのうつくしい怠慢
あるいは密約

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20240707 日記のようなもの

予報に示されていた通り、本日もとても暑く、すこし窓を開けて外気に手を差し入れてみただけで、日中の野外活動は非常に困難であるということが瞬間的に分かったので、ほんとうは上野の森美術館でやっている石川九楊展に行きたかったのだけど、美術館の屋根の下にたどり着く前に道端で倒れてしまうだろうと思われたので、それはやめて、カーテンを半分閉じた部屋のなかで、日曜日もよく働く冷房の下、信長の野望をプレイしていた。

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20240618 日記のようなもの

思えばここ数年は、正確な情報伝達を主目的としたまとまった散文ばかりを書いていて、エッセイのようなある種ふんわりとしたものを書いてこなかった。そろそろ何か書いてみても良いのではないか、そんな気まぐれから、続くかどうか分からない日記のようなもの、を書きはじめている。日記としたのは、定期的に書くエッセイのような散文の名前を、「日記」以外に私が知らないからで、毎日欠かさず書こうという気持ちの表れではない。

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仮名遣いの歴史についてのメモ


はじめにとあるきっかけから仮名遣いの歴史について興味を持ち、いくつかの文献を用いて調べていくうちに、仮名遣いの問題は広範かつ複雑であることを知った。本稿は、仮名遣いの歴史についてより深く理解するために作成した個人的なノートである。仮名遣いの歴史についてできるだけ全体像を把握できるよう、さまざまな話題を比較的簡潔に取り上げたつもりである。誤りのないよう注意したが、正確な情報を確認したい場合は参考文

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小景

坂の上から斜面に沿って
流れている光の
途中で果実が実り
ごろごろという音に変わる
見ている者の存在を
対岸に感じるが
もう誰もいないだろう

月面へ向かって
開いている窓の
いつから開いているのか知らないが
風よ もう閉じてもよいと言う
林の奥へ羅針盤を埋めなおし
ここへ戻ってきてもよい

架空と虚構とにまたがって
横たわる鰐の死体を
四つ辻に見ていた
事件でも事故でもないと警官は言い
川がない

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詩 Q

  どこへもいけない
  どこへもいける
  ここからできるだけとおくへいく
  ここにいるままで
  ここにいるままで

夜明け前
廃棄されたコインランドリーの数々が
街の外縁を形作っている
その稜線は
あざやかなままで
あざやかなままで枯れてゆくから
わたしたちはいつも
夕景が画布を隠していることに気づかない
それでいて
徒歩のような
日々の鈴なりにどこか退屈しているのは
もどかしさでいっぱい

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詩にはどのようなものがあるか――詩の種類と多様性


1 はじめに詩を読んだり書いたりするとき、そもそも詩とはどのようなものなのかという素朴な問いが、持ち上がることがある。この純粋な問いは、詩を書く人にとって重要かつ深遠な問いである一方、答えることの難しい問いでもある。そしてまた、「詩とはどのようなものなのか」という問いの持つ曖昧さが、答えることをさらに難しくしている。そこで、もう少し整理した形で問い直すことにする。

アプローチは二つ考えられる。

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海食崖

あなたの喉元に降りかかるそれは
決して綿雪などではなく
何もない海食崖
ただ正視をつづけるわたしたちの
声が消え尽きてしまう地点から
西日が低く落としている眦
その海岸線に沿ってたくさんの
過去を持たぬ生き物が
歩いている
その目のいろ
あれはわたしの目だ、と思った

あなたの耕していった
なだらかな果樹林を抜けるとき
おなじ歩幅で
あるいはおなじ文法で
昨季降らなかったぶんの雨が 沈殿する
ここ

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椅子 (クヮン・アイ・ユウおよび河上類による合作)

いま叩きつぶした助詞の一つから
細く立ち上る硝煙の先端に
矢のような朝陽が差し込むとき
お前のその
五指を刺すつめたい痺れから
赦しを引き出す手順を思うのは
不自由さ故か 名無し故か
重力の溶解した視界には
ただ想像力のみによって敷設された
一本の鉄路がある

それはoutlineであった
逆光のなかで駆け出せば
銃身の整列する牧場を抜ける
そしてある緋色の着水を待って
おもむろに連鎖をはじめる美

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街と海

夕日の巨大な親指が
尾根を下ってこちらへやってくる
もうじき
環形動物の夜なのだ
そっと輪郭を書き留めている
書生のまなざしなのか
それとも
日記を焼く二日前なのか
それは分からないが
落ちている眼球のさみどりは
もう誰のものでもない

  街から海へとつづく一本の道があり
  一本の道だけがあり
  この街の誰も
  海へ行くことがない
  なぜなら
  すべてのものは海からやってくると
  街

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連作三十首 雪明りの観測

朝雨にけぶる彼方のビル群の間を泳ぐ巨大なアロワナ

振り向けば秋の舗道を駆け抜ける銀狼の散らす落葉のあと

しんしんと骨片のふる地下書庫で灯火にひらく菌類図鑑

頭部なき埴輪ばかりが並び立ち祈りへ向かう顔を知らない

布という声がして近づけばカーテンの芯にひらく果樹林

雨上がり飛び立つものにPapilioと呼びかけてみる虹彩のなか

音もなく栞紐を揺らし秋宵は通り過ぎゆく悪寒を置いて

くちばし

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第三回 匿名文通合評会のお知らせ

概要自作の詩作品に関する建設的な意見交換を行うことを目的として、匿名の状態の参加者どうしで詩作品を批評し合う合評会です。

方法参加希望者は主催者に参加を申し込み、自作の詩作品を提出します。

所定の参加者数が集まったら、合評会が決行されます。

提出された詩作品は、主催者によって作者以外の複数名の参加者へ配布されます。このとき詩作品の作者は伏せられています。

配布された詩作品に対して参加者はコ

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連作十首 ある現像

巻き貝のなかから一つの幻聴を抜き取り氷の標本とする

くらやみは水辺で生まれた生き物で 左の眼窩に白魚を飼う

春雷の近づく乾燥機のなかで胎児のごとく眠る子羊

白桃を揺らせば鈴の音がする 屈伸のごとく水門ひらく

水槽を両手に乗せてこの秋のもっともしずかな窪地へ向かう

凍蝶の翅を河原で焼く人の脳を揺らす教会の鐘

投げ上げた鍵束が花ひらくとき街上に散る銀のきらめき

夕照に両足浸す私の汀を過ぎ

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