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#46 永遠の「ラグビー少年」

「岸岡智樹選手からオレンジリポーターへ取材依頼があります」

チーム広報さんからその連絡が届いたときの驚き!!

アカウントを作っていないSNSがあるのか調査したいほど、あらゆるジャンルのツールを使いこなしている、クボタスピアーズ船橋・東京ベイ所属の岸岡智樹選手。
「ラグビー界で最も発信力のある選手」と呼んでも差し支えないはずです。

その岸岡選手が、なぜ?
どんな記事にすればいい?

取材するまでも、
取材してからも、
仕上げてからも、
悩みに悩んだ記事。
公開するまで多くの時間を要しました。

今回のnoteは、そのB-Sideをお届けします。

LOVE RUGBY??

マルガオ(筆者)はずっと不思議でした。

スキル、
ルール、
タイムマネジメント、
メンタルコントロール、、、
その瞬間の最適解たるプレーを選択するためのあらゆる知識とあらゆる技術。
現役選手が、あらゆる媒体を駆使して、幾重にも、一般の平均からは過ぎるほど豊富に発信している。

「これだけの情熱を注ぐ動機や原動力は何だろう?」
「個々の発信とは別に、
真に伝えたいことがあるんじゃないかな?」

そんなとき、流れてきたのは、『岸岡智樹のラグビー教室』(以下、岸岡教室)を今年も開催するというニュース。

「岸岡選手にとっては何足目の草鞋わらじなんだろう?」

そう考えたとき、岸岡選手が発信するたびにマルガオの心に芽生えたたくさんの「?」の点と点が、まるでスピログラフを描くように繋がって、1つの「!」を導き出しました。

「『草鞋』を増やしているのではなくて、
最も適切に伝えられるツールを求めるうちに、
伝達手段が増えているのではないだろうか!」

それ以降は、岸岡選手からラグビーファンへと湯水のように注がれる発信は、マルガオの中でこんな問いかけに脳内変換されるようになりました。

「あなたはラグビーをどれだけ愛していますか?」
「僕以上にラグビーを愛してる人はいないんじゃないかな?」

そして、導き出された「!」は、岸岡教室の開催概要や参加者募集のお知らせを見るにつれて、次第に確信へと変わっていきました。

「岸岡選手を豊富な発信へと向かわせているのは、
炎が舞い上げる火の粉のようにほとばし
ラグビーへの尽くせぬ情熱なのだろう」

岸岡教室が全日程を成功裏に終え、メディアだけではなくファンにも報告の場が設けられ、マルガオの元へも岸岡選手への取材日程が組まれたとき、冒頭の驚きとともに、悩みが生まれました。

わたしのラグビー愛では、きっと足りない。

でも、すぐに思い直しました。
まだラグビーに対する愛情も知識も未熟なマルガオだからこそできる取材があるはず。
未熟なラグビーファンの視点から取材プランを構築する中で、マルガオの中で1つのミッションが生まれました。

岸岡選手のラグビーへの大きな愛情を証明してみよう!

この証明問題に対するマルガオなりの解が、 SportsNaviの記事です。
岸岡智樹選手のラグビーへの愛情や情熱は、マルガオの拙い文章を通じてさえ、存分に感じ取っていただけたのではないでしょうか。

B-Sideは、別日に機会をいただいた、もう1つのインタビュー。
「岸岡智樹」という稀代の才能に、ニワカファンだからこその素朴な疑問をぶつけてみました。
(取材日:2022年11月17日)

地域格差の芽を摘む

マルガオが最初に気になったのは、ラグビー教室の対象年齢です。

背の高さと低さ、身の軽さと重さ。どんな体型にも適正ポジションがある「多様性」もラグビーの魅力の1つですが、裏を返せば、競技開始年齢が低いほど、成長期を経て、体格とともに適正ポジションが変化していく可能性も高い競技です。

小学4年生~中学3年生を対象として、パスという基礎でありながら奥深いスキルに主軸を置いた岸岡教室の意図は、気になるところでした。

最も重要度が高いと感じた中学生を中心に、地域格差が存在する高校生ではなく、生じる前の小学生を選びました。

パス、究極の基礎と基本

ポジションによって適性が変わるのは、体格だけではなく、スキルも。
同じポジションでも左か右かで、望ましいスキルが異なるそう。

そんななか、どのポジションでも高く要求されるのがパスのスキル。
現代ラグビーでは特にパスに秀でた選手の重要性が増しています。

パスの質が高いことでも人気の岸岡選手に教わるパススキル。
参加者の皆様の期待も高かったことでしょう。

基本的にはパスが上手になるための基礎・基本の練習をしますが、岸岡教室に参加してくれる子たちの多くはパスを投げることはできるんですよね。

じゃあ、そのパスは本当に適切か?
種類は?投げ方は?タイミングは?速さは?位置は?と問いかける。
そして、適切に投げるための基礎や基本に立ち返る。

頭を使わないとフィードバックはできない。
そういう本当に専門的なことを扱えるようにしていきたいと思っています。

そこまで話すと、思い切ったように来年の展望を打ち明けてくださいました。

参加いただいた方々へのアンケートの回答に、実力や難易度に応じた教室の希望が多かったんですね。教える内容っていうんですかね。
まだ何も決まっていませんが、今後の展開の軸の1つになってくる可能性があると思います。 

人口と競技人口と地域格差

岸岡教室の開催場所は、所属チームのホームタウンや出身地に留まりません。
2年目の開催地は、栃木県、千葉県、沖縄県、大阪府、福島県、長野県、新潟県、愛媛県、大分県、長崎県の10府県。
開催地選定の狙いと、実際に開催してみての手応えをお伺いしました。

1年目は集客しやすい時期と都市部を選びました。
2年目は1年目から知見を得て、ちょっと地方側へ足を延ばしました。
実際に行ってみて感じたことは、地方だから人が集まらないとか、レベルが低いとか、そういう格差はなかったということです。
競技人口が多いか少ないかは集客とは関係ありませんでしたね。
実験の母数が少ないのでなかなか難しいところですが、「地域格差が存在した」というのは言い切れるし、結論としてまとめられるんじゃないかなと感じています。

スキルと安全性は二律背反なのか?

パスに限ったことではありませんが、スキルの向上はスピードやパワーを増強するため、時として危険性も高めます。
一方では、スキルの獲得によってリスクへの対応力が身に着く側面もあります。

ラグビーの普及には、安全性への信頼を高めることも欠かせない要因だと、マルガオは思っています。

そんな疑問もぶつけてみました。

ジュニア世代ですと、ラグビー部に携わる方が協会のコーチング資格を持っていなかったりラグビー経験者ではなかったりする地方もあります。
安全管理に関してしっかりと理解して指導されているケースは(全体に対して)非常に少ない。
安全のための技術を教える知識やノウハウが乏しい現状があるので、そういう方々をどう育成していくのかは、ラグビー界全体の競技力底上げを図る上で着手すべき着眼点ですね。

一律に指導することは難しいでしょうが、岸岡教室の試みとして、運営側のスタッフの人数を増やすのではなく、その地域で普段コーチをされている方々を募って一緒に開催したんです。
その方々が何を持ち帰ってくださったかは分からないのですが、接する機会を作ることができたのは大きな1歩だったと思っています。

例えば今後コンタクトレベルを高くして試合形式も取り入れたときに、身体の使い方や知識でカバーできる部分については届けられるようになると思います。
安全性もアプローチの対象として捉えられるといいな、と思いますね。

地方と地方をつなぐ

岸岡教室がアプローチするジュニア世代は、地方のラグビー熱を高める起爆剤になり得る原石です。
それぞれの地域が孤軍奮闘するのではなく協力関係を結べたら、その発展性は高いはずです。
北海道から沖縄まで、全国各地を巡回した手腕には、開催地と開催地のコネクトも期待してしまいます。

例えば、旧来の体制ではリソースが不足していた部分を、デジタルの得意な世代がスピード感を持ってサポートする。既存の組織だけでは繋がりきれないものを、外部の人間が繋ぎ役となって勢いを持ち込む心持ちで取り掛かる。
地方のラグビーの環境をより良くするのは、そういうことかもしれないと思うんです。

種を蒔けば植え付いて育ち、環境が変化していくという土壌が地方には多い気がします。
3年目以降に岸岡教室がそんなきっかけを作れたら嬉しいですね。

地方は都市部と比較すると人口が少なく予算に限りのあるイメージがありますが、例えば、比較対象を都市部からトンガ王国へシフトすれば、人口数も経済状況も恵まれている地域は少なくないでしょう。
もちろん、体格や過去の経歴に違いはありますし、恵まれているからこそ他の選択肢もあるため、そっくり真似ることはできないでしょうが、人口数も予算も少ない中で優れたラグビー選手を次々と世界に輩出するトンガをモデルに、学べるところもあると感じています。
いわば『疑似トンガ』のような育成スタイルを実現できれば、本邦でも有望な選手がたくさん生まれるはず。

僕の歯痒さは、柔軟な発想があれば、実際に足を運んだ僕と同じことを考えることができるところ。『現地調査』をしなくても、想像だけでも地方格差の解決策はイメージできるんですよね。

でも、2年の実績で「こういうことをやったらいいんじゃないかな」と言えば共感してくださる方が増えた。
ラグビー界にそういう土壌があることは、これから活動を展開したり方向転換していく中で強みにできると思っています。

常識が非常識になり「正しい」が増える

2年目の大きな変化の1つがサポートメンバーの導入でしょう。

サポートメンバーは岸岡教室にどのような影響をもたらしたのでしょうか。

これまでのイベント設計ではなく、何か新しい風を吹かせたかったので、チーム岸岡の半数くらいはラグビー界の外からお招きしました。
ラグビーを全く知らない選手の意見は、すごい議論になることがあって。自分の常識が覆されることもありましたし、「ここはラグビー界の常識を通そう」という結論になることもありました。
しっかりと議論を熟成させて、自分たちの目標に沿う形がどんなものか、改めて確認できたのが1番良かったことですね。

僕は「自分の意見は正しい」と思うタイプの人間なのですが、ラグビー界、都心部、強豪チームなど自分が経験してきた世界にはない常識も世の中にあって、環境によっては自分の常識が非常識になりえるということを痛感した2年目でした。
自分自身を客観的に見たり、他に意見があるんじゃないかというマインドで様々な方向性を探れるようになったのは良かったですね。

「地元パワー」、その圧倒的な可能性

サポートメンバーの参加は、地域と選手のつながりを再認識する意味でも大きかったようです。

新潟には原わか選手、愛媛には忽那くつな健太選手など、開催地になじみの深い人をサポートメンバーに招くようにしました。

新潟では「わか花ちゃんだ~」みたいな感じで、僕よりわか花ちゃんの方が圧倒的に人気が高いんですね。
岸岡の名前のイベントなのに、と僕はすごいびっくりして。
もちろん、女子代表で活躍されていて認知度も高いとは思いますが、その「地元パワー」に大きな可能性を秘めていると感じました。

出身スクールに帰るだけではなく、地元に恩返しをしたいと考えている選手は結構多いんです。
その機会を提供できたというところも非常に良かったと思っています。

地方に巨樹がそびえるまで

「3年目の岸岡教室は地方のラグビー人気のカンフル剤になるか?」と問えば、対象年齢のラグビー選手が身近にいない、まだラグビーに興味のない層へも浸透させるのは容易でないと思います。

しかしながら、岸岡教室のポテンシャルは、未来へと枝葉を伸ばすには十分です。

岸岡教室で学んだ高いスキルを武器に世界へと羽ばたき、日本中を沸かせる大きなニュースを届けてくれる選手もいるでしょう。
一方では、そんな輝かしい未来と同じくらい、岸岡教室で学んだラグビーの楽しさを、地域に根差して次の世代へと伝えていく選手も大勢いるはずです。
日本のラグビー熱を1℃上昇させるのは、きっと後者の子どもたちだと、マルガオは思います。

47都道府県すべての代表チームが優勝候補となるような群雄割拠の盛り上がりを楽しめるのはいつか。
47都道府県すべてで毎週のように気軽にラグビー観戦できるようになるのはいつか。

岸岡教室は3年目となる今年も、まだラグビーの情熱が芽吹く前の地域へと種を蒔きに行くことでしょう。
乾いた土地にいきなり水を遣っても効果的ではないように、岸岡教室が届けるラグビーへの愛情が地域に浸透するためには、参加者や保護者の方々、地元の有志が一体となり、その地域に適した鍬を固い地面へと幾度も振り下ろす行程が必要でしょう。
やがて、人と人、地域と地域とを結んで育まれた肥沃な土壌に、ラグビーという文化が希望の根を拡げ、若葉を萌やし、いずれ巨樹となるでしょう。

次に芽を出すのは「あなたの街」かもしれませんね。

岸岡智樹選手ご自身による振り返りはこちら。

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