バリ島紀行 * 厠事情 その②
ようやく出口に近づいたところで若い女の子と目が合った。
「あの、近くにトイレはありますか?」
と尋ねてみる。
「あちらにあるわよ」
どの建物かはわからないけれど、「あちら」の方に行ってみるしかない。
「待って。それ、持っていてあげる。邪魔でしょう」
胸元に抱えていたクロックス。これを預かってくれると言う。けれど、一瞬、私は躊躇した。トイレ、絶対に汚い。裸足で入るのは嫌だ。
私が戸惑っていることに気付いたのだろう。
「大丈夫、盗まないから」
いや、そうじゃなくて。裸足だとほれ……
なんて説明している余裕もない。狭すぎてその場に立っているだけでも大変だった。もうやけくそで彼女にクロックスを預け、なんとか外に出る。
ここでマデさん再登場。
「何してるの? 他の皆は?」
「中にいる。私はトイレを探してる」
マデさんが近くの人に尋ねてくれて、トイレの場所判明。
やれやれと扉を開くと……
予想をはるかに超えていた。
完全埋め込み式で金隠しのない便器、流れ切っていない汚物、水浸しの床、電気はなく真っ暗、おまけにものすごい悪臭。
数秒間、私は固まった。
昔々のぼっとん便所といい勝負だ。いやそれより凄い。
どうしよう。
でも、他にないのだ。
我に返った私は腹を決めた。
えいやっ!
と、急いで用を足し、そそくさと外に出る。
この間、30秒もかからなかったんじゃないだろうか。
二度と入りたくないし、今思い出しても鳥肌が立つ。
外で待ってくれていたマデさん(トイレに鍵がなかったので、ドアの前で待機してもらった)、
「人が多すぎて、私は皆の所へは行けない。終わったら迎えにいくから、あなたは戻ってお祈りして」
とのこと。
でも、元の場所にはとても戻れない。クロックスを預けた女の子に手をふると、手招きされたのでとりあえずそこまでなんとか戻る。
そうこうしているうちにお祈りが始まってしまった。
「ここに座って」
彼女がかろうじて座れるくらいの隙間を作ってくれた。その上、お祈りのお花まで分けてくれ、線香も一緒に使おうと言う。
有り難く線香の煙で手を浄め、お祈りに参加させてもらう。
バリ島でも田舎の方になると、現在でも水道が整備されていない所が多い。
水の代わりに線香の煙で手を浄めるようになったのかもしれない。日本の神社の手水みたいなものだろう。
お祈りが終わるとお寺の中から僧侶が出てきて聖水をかけてくれる。
とはいえ大人数だから、水滴が届くかどうかは運次第。両手伸ばして待っていると……
来てくれたー!
ありがたや、ありがたや。
これにて終了のようで、村人たちは三々五々散っていく。
親切にしてくれた女の子にお礼を伝え、マデさんツアーの皆の元へ。
トイレの一件はまいったけれど、参加してよかった。こんな素晴らしい神事に巡り会えるなんて、滅多にない。
クロックスのこと、疑っていたわけじゃないんだよ、と、あの子に伝えたかったな。
バリ島ひとりっぷ、怒涛の1日でした。