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シモキタ・ブルース

下高井戸の駅前市場が3月末をもって閉鎖した。今や跡形もない。これから新しいビルが建ち街の様子も変わっていくのだろう。
これと同じ光景を、十年ほど前にも見た。
駅前開発で撤退を余儀なくされた、下北沢の駅前食品市場である。
闇市の名残を残す稀少な商店街だった。

ごちゃごちゃとひしめいた掘っ立て小屋のような商店は、あれよあれよという間に取り壊され、あっという間に、新しい街へと変貌を遂げた下北沢。

もともと方向音痴なのもあって、
「なぜこんなところにピーコックが?」
「昔よく待ち合わせしていたコンビニはどこ?」
といった感じで何度来ても方向感覚が掴めない。そして、違和感を拭えない。

街を歩くのは小綺麗な女の子たちとオサレな青少年ばかり。
そもそも下北沢という街は、プロアマ問わず音楽関係者、そのどちらにも属されないミュージシャンくずれやお金のない劇団員etc.……謂わば、ならず者たちが集まる街だった。

そうであるべき街だった。

劇場もライブハウスも健在しているとはいえ、街そのものの空気や色が昔とまるで違う。
まるでセピア色の風景画が原色の絵の具で上塗りされたかのようだ。

新しい街・シモキタではしょっちゅう古着イベントを開催している。
昔から古着屋は多かったけれど、今とは存在理由がちょいと違っていた。
お洒落のために買うというより、金がないから古着で間に合わせる、といったニュアンスの方が強かったと思う。

そして、一体誰がメディアに紹介したのか、小綺麗な服を着た若者が珉亭に行列を作るなんていうことも、あり得ない光景だった。
唯一、ほっとする空間だった中華そばの一龍も、先日行ったらものすごく行列ができていた。

ああ、書いているとキリがない。
要するに、私はがっかりしているのだ。
モッズパーカーにギターを背負った若者や安居酒屋でくだを巻く劇団員が街を闊歩していた昔の下北沢が、懐かしくて仕方ないのだ。

と、ぶつくさ言いながらも、去年も今年も、正月から下北ミカンの居酒屋で飲んだくれてしまった(他に店が開いてなかったのよ)。

老舗ロックバー、トラブル・ピーチもなくなった。あの頃のロックン・ロールはもう聞こえない。

気だるいブルースが似合う街。
それが、昭和のならず者たちが愛した下北沢だった。

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