【読書ノート】『水の輪』(『すいかの匂い』より)
『水の輪』(『すいかの匂い』より)
江國香織著
夏のテーマが綴られた短編集。
自然に囲まれた新しい場所で暮らす主人公が、クマゼミの鳴き声に触れ、過ぎ去った7歳の夏の出来事をぼんやりと思い出す物語。
一見、よくわからない物語なので、キーワードを挙げてみる。
①「水の輪」にはどんな意味があるか?
流れる水、澱んだ水、輪廻の中の水。水は癒しと蘇り、取り返しのつかない流れの象徴。多面的な意味に包まれた「水の輪」に注目。
②まぶしさと眠たさ
外界からのまぶしさと内なる眠たさ。対照的な感覚が織り成す人間のダイナミクス。外と内、活動と休息のバランスを探る。
③クマゼミの死骸
夏の象徴、命のはかなさ、自然との繋がり。クマゼミが持つ意味や文化的位置づけに思いを馳せる。死と再生の象徴。生命の循環と新たな命の誕生を感じさせる。命の尊厳と循環性について深く考える時。
④カタツムリを踏み潰す
幼い女子の行為が象徴する暴力と無関心。生命の尊厳を問う倫理的な問題について考える機会。
物語の主題は何か?
ひとにとって、大自然というのは、困難だったり、恐怖だったりするもので、長い人類の歴史は、自然をどうコントロールしていくか、ということで、発展してきたのだと思う。そうではなく、自然の中の一部に人類の歴史があるわけで、自然と人間は、共生関係であるはずだと理解した。自然と調和することが大切で、自然の摂理を認識することが重要ということなのだろう。