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感想『1898年の大厄災:米西戦争』

高校の世界史で習ったのだろうか、もう忘れてしまった米西戦争。このときのアメリカ大統領だったマッキンリーよりも、次のセオドア・ルーズヴェルトのほうが、軍艦を引っ張りながらこん棒をかついでカリブ海を闊歩している絵のせいで印象に残っています。

本作は以前、購入直後に数回ソロプレイをして簡単な感想を残しました。あれから何度か対人戦もやったので、改めて自分の感想をまとめておきたいと思います。

良いと思った点

シンプルな非対称戦

まず、本作は非対称戦を簡単なルールで取り入れているのが面白いと感じました。

通常の戦闘では、ユニットの強弱関係がアメリカ軍(反乱軍)>スペイン遠征軍(スペイン)>キューバ軍・タガログ軍(反乱軍)>スペイン現地軍(スペイン)でハッキリとしています。

エリアでの戦闘ではスタック制限ルールがあるため、この強弱関係を数の力で覆すことは難しく、必然的に戦力に劣る側は通常ではない戦闘方法に頼ることになります。

それが判定に成功しさえすればどんなユニットでも倒せるゲリラ戦です。ゲリラ戦であれば最弱のスペイン現地軍でも最強のアメリカ軍を倒せます。

前半、アメリカ軍が来る前は、普通に戦うと不利な反乱軍はスペイン遠征軍を狙ってゲリラ戦をしかけます。対するスペイン遠征軍は反乱軍より強いので、ゲリラ戦をするインセンティブは少なく、攻撃するのであれば堂々と通常の戦闘を選択します。

アメリカ軍が来ると状況は一転し、通常戦闘での優位が反乱軍に移るので、スペイン軍がさっきまでのキューバ・タガログ軍のように振る舞うようになります。

通常以外の戦闘方法を用意するというシンプルな仕組みによって、自然と戦力劣位の側がゲリラ戦を行うようになり、ゲームの展開に変化を生み出しているのはかなり面白いと感じました。弱い側も能動的にアクションして攻撃できる、というのが良いですね。

制海権の重要性

陸海の協力の要素が含まれている戦略級ゲームは、わたしの感覚だと、やや難しくなりがちで、どこに上陸できるのか?や補給線は通るのか?というルール読解に手間取るイメージがありますが、本作はここもシンプルです。

本作の制海権の効果は、それを持っている側は好きなエリアからあらゆるエリアへ移動可能!という明瞭なもので、まったく迷う余地がありません。

キューバもフィリピンも地形が細長いため、地上戦だけでは展開が押したり退いたりの一本道になりそうなところ、この制海権ルールによってプレイヤーの取れる選択肢が増えています。

トロチャを巡る攻防でも制海権は大切です。制海権をスペインがもっていると、スペインはトロチャのあるエリアに援軍を続々と送り込めるため、反乱軍がどれだけ攻撃しようとこれを落とすことは不可能です。

しかし、制海権を反乱軍が握ってトロチャの背後のエリアを抑えてしまえば、イベントカード以外でスペインの増援が入ってくることはなくなるため、トロチャ占領の可能性はぐっと上昇します。

また、制海権の推移はターン経過とイベントだけで表現されています。これも分かりやすく良いです。

本作の制海権ルールはシンプルですが、その分ハッキリと力強く海の力が表現されており、アメリカが世界一の強国になった理由を感じられます。

制海権が強調されている手軽なゲームといえば、ボンサイゲームズの『ポエニ戦争』もそうです。

第2次ポエニ戦争でのハンニバル海賊作戦とそれに対抗する第1次ポエニ戦争でのローマの動きを考えることで、だから実際のハンニバルはアルプスを越えるしかなかったのかと納得できました。

本作も『ポエニ戦争』も、プレイヤーが何かの気付きを得るのには、必ずしも複雑なルールが必要なわけではないという好例だと思います。

気になる点

簡単なルールでゲリラ戦、制海権といった難しくなりがちな要素を表現している本作ですが、反乱軍側で勝つのは相当難しいのではというのが気になる点です。

まず勝利条件が厳しいです。2点のエリアをすべて押さえなくてはならないので、逆にスペインは2点のエリア1つを徹底死守すれば勝ててしまいます。

ただしアメリカ軍が4か月でスペイン軍に一方的に勝ったことを考えると、これは適切な勝利条件だと思います。この戦争後にアメリカはキューバ、フィリピン、プエルトリコ、グアムを支配するようになるのですから、主要地域を全て抑える完勝が要求されるのも納得です。

それよりも私はそれを達成するための反乱軍の兵力が足りていないのではと思っています。

ゲリラ戦だけではエリアを占領できないので、反乱軍がスペインを追い上げるためには絶対にアメリカ軍の力が必要です。が、しかし、アメリカ軍登場に必要なメディア支援の数値がなかなか上昇しないのです。

メディア支援は、最初に3から始まり、毎ターン1ずつ上がります。他にイベントでも上昇しますが、これはスペインのイベントでの減少とほとんど相殺されます。

なので、アメリカ軍はうまくいって毎ターン4個の増援です。これが3ターン分出てくるので12個。さらに、海戦カードで出てくるのを加えて、ゲーム中に使える数は合計18個程度になるでしょう。

対するスペイン遠征軍は初期配置でたくさん、さらにイベントカードで最大19+2d6個と数の面ではかなり上回っています。さきほど戦力の強弱はユニットの数で覆せないと書きましたが、それはあくまで1エリアの戦闘での話であり、大局的にはやはり数は正義です。これに加えて強力なトロチャ、ウェイレル将軍と強力なイベントカードもあります。

さらに、こちらの蒼き臥竜の戦歴さんのブログで提示されている「スペイン軍をキューバに集める作戦」は非常に有力だと思います。反乱軍のフィリピンにタッチするカードが無駄になるのも辛いです。

どうも反乱軍、とくにアメリカ軍の兵士の数が足りていないように思えます。もう少しメディア支援を上げやすくしてアメリカ軍が登場する数を増やしても良いかもしれません。フィリピンを全て占領したらターン毎にメディア支援が+2するとか、あるいはカード解説を読むに、ウェイレルと再集中政策のメディアへの影響はプラスでも良いような気がします。

まとめ

簡単なルールで戦争の多面的な要素を体験できる点が本作の魅力だと思います。ルールブックに米西戦争の概要とカードイベントの丁寧な解説が載っているのも良いところです。読み応えがあり面白いです。その場インストでもプレイでき、1プレイには1時間もかからないので是非是非。


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