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完全「夜勤明け」マニュアル  |  新卒介護士カイゴ録

 
介護士の夜勤は、16時間労働である。
 

だいたい15時とか16時に始まって、次の日の9時とか10時に開放される。まる2日分の労働である。休憩や仮眠はあったりなかったりする。(施設や病院によって全然違う。3時間くらい寝られるところもあれば、ほぼ一睡もできない職場もある。ウチは後者であった。)
 

看護師の夜勤も同じような感じである。ちなみに介護士も看護師もさすがに給料はちゃんと2日分+深夜手当。
 

この法外な労働体制は、さっさと新都知事に改革してもらうとして、真に注目すべきは「夜勤明け」だ。
 

夜勤明け。仕事が終わったのに朝。
 

夜勤明けは麻薬である。
 


 

夜勤明けがなぜ麻薬なのか。
 

理由は2つある。
 

1つ目は、身体的にバグってしまうことだ。
 

もちろんある時刻までは、体は正常に働いている。体がちゃんと「ねみいから休め」とアラートを出す。

 
1番辛いのは朝方だ。4時くらいから8時ごろまでが特に眠い。体が鉛のように重い。僕はよく立ちながら寝ていた。食事介助中にスプーンを落とした。おばあちゃんのひざに味噌汁をぶちまけた。(常温。ヤケドはさしてない)
 

しかし、9時をまわるころ、主人がアラートを無視して働き続けると、今度は眠気の中枢のほうが疲れて休止してしまう。
 

気づいたら眠くない。あれ、動けるわ。ちょろいわ。寝んでもいけるわ。
 

これが「夜勤明けハイ」である。
 

ちなみに夜勤明けハイは、20代前半にのみ訪れる。アラサーになると、眠気の中枢がマヒっても、体の節々がちゃんと活動限界を知らせてくれる。したがって、直帰して泥のように眠るだけである。
 


 

夜勤明けが麻薬であるもうひとつの理由は、精神的なバグりにある。
 

夜勤が2日分労働なのは冒頭にて説明したが、その分夜勤明けの次の日まで、休みになることが多い。
 

つまり夜勤が終わった瞬間は、次の日まで休みなので、「早起きした土曜日」的な感覚になる。
 

圧倒的開放感だ。
 

これから2連休。しかも無理して早起きしなくてもいい。なんならもう起きている。お前はもう、起きている。
 

こうなったらなんだか帰って寝るのがもったいない。どっか行きたい。どこでもいいからどっかに。しらない街を歩いてみたい。どこか遠くへ行きたい。
 

ちなみにアラサーになると、精神的にも落ち着いてくるので、明けでも舞い上がることはない。心を落ち着かせながら、しっかりと布団に倒れるだけである。
 


 

夜勤明けハイとは、ざっくりとこんな感じだ。
 

そこで、僕がまだウラ若く、まだ「明けハイ」があったころ、どんなふうに過ごしていたのかを紹介しようと思う。
 

突然だが僕は散歩が趣味だ。まるでジジイである。
 

道端の何気ない草花とか、見ながらダラダラと歩いていてもそこまで飽きない。ジジイである。
 

ジジイなので遠出も好きだ。紫陽花とか紅葉とかを見にちょっと足を伸ばすのが好きである。地方の街歩きも好きである。模範的なジジイだ。
 

そんな若ジジイの僕が、明けハイの状態のまま、帰路に着いたとき、
 

職場最寄りの駅に着いたとき、
 

やることは決まっていた。
 

「とりあえず来た電車、終点まで乗ったろう」だ。
 

(明けで行った終点のひとつ「熱海」)
 


 

夜勤明けで「この電車の終点まで乗る」旅をするメリットは数々ある。
 

ひとつは、プチ旅行ができることだ。
 

時間は丸2日ある。日帰りでも、適当に泊まってきてもいい。
 

特にウチの職場の沿線には、東海道線とか湘南新宿ラインとかが来たので、北は高崎・宇都宮、南は熱海・小田原と、まことにちょうどいい小旅行ができる環境だった。
 

また、電車でゆっくり座って寝れば、終点で歩き回る体力を回復できる。
 

座れなかったらどうするのか。必ず座れるのだ。グリーン車を買ってしまえばいい。新幹線に比べりゃ安いもんだ。明けハイなので財布のヒモもゆるいゆるい。
 

いつもの通勤電車に乗って、いつも行かないところに行く。なんという痛快さ。行き先で何をするかなんて特に決めず、グリーン車なんか乗っちゃって、缶ビールをプシュっとやる。この世で最も自由な瞬間である。
 

事前に買うのは缶ビールと、おにぎりやポテチやチーカマなど。座るのはグリーン車2階、海側の、進行方向に対して左側の席。もちろん窓際。リクライニングは125°。
 

景色なんかボーっと見ていれば、ちょうどよくウトウトとなるので、眠気に身を任せる。この瞬間は、もしかしたら家の布団で寝るよりも気持ちいいかもしれない。
 

(明けで行った湘南、七里ヶ浜)
 


 

そんなこんなで、僕はたくさんの明け旅行に出かけた。
 

高崎では、街中の普通の公園で白鳥が飼われていてビビった。宇都宮では、餃子の石像なるものがたくさん建っていて狂気を感じた。銚子で犬吠埼に行って、海岸でコケて溺れかけた。熱海では着いたのが夕方で温泉は閉まっていたし、大磯では、地元のおっちゃんに話しかけられ、LINEを交換し、後日一緒にごはんに行ったら、同じ大学出身の先輩だった。
 

鎌倉では、鶴岡八幡宮でホタルが飛んでいたりした。
 

色んなところに行ったが、最初の明け旅は、七里ヶ浜だった。

  
多分初めての夜勤だったと思う。
 

疲れすぎてよく覚えていないが、とにかく漠然と海が見たいと思った。

 
横須賀線直通のやつで鎌倉に行き、江ノ電に乗り換える。海が見えてきたあたりで降りて、海岸をただただ歩く。BGMはサザン一択。来るたびに思うが、稲村ヶ崎〜七里ヶ浜あたりの海岸は最強だ。湾口がゆるやかで景色が広い。海もいいがこのへんは陸側の景色もいい。江ノ電越しに鎌倉高校が見えたりする。こんなロケーションの高校に入ってしまって、勉強に集中できる生徒なんているんだろうか。毎日が映画みたいなアオハルであろう。だが僕がもし鎌倉アオハル高校の生徒であっても、恐らく映画みたいな青春は実現しなかったとも思う。多分毎日ぼーっと海を見て全然勉強しないだけの、成績の悪い陰キャだっただろう。陰キャはどこにいても陰キャである。
 

その日はこうやっていらんことだらだら考えながら、だらだら歩いて海を見て帰った。
 

夜勤明けは、何をしても許される。平日とも休日とも違う、不思議な時間だ。
 

なにも考えず遠出しても、出かけた先で特に観光しなくても、1日ずっと寝てたとしても、全部有意義だ。
 

いや有意義ともちょっと違う、なにかこう、何をしてもしなくても、あまり罪悪感が生まれないのが、夜勤明けっていう時間の特徴だ。

 
がんばって働いたご褒美的な時間だからかもしれないが、何をしても許される、何もしなくても許される、そんな不思議な時間が、夜勤明けなのだ。

 
これらの明けで行った小旅行に関してはネタが尽きないので、また別記事でご紹介します。
 

夜勤明けを愛することができると、このキツい仕事もちょっとだけ、楽しくなるのだ。
 
 

七里ヶ浜からの夕日と江ノ島
 

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