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ゲテモノ半魚人映画? "The Shape of Water"
2年程前に飛行機の中で観て、かなりのゲテモノさに辟易した2時間の後、エンディングで突然がつんと圧倒された映画。デル・トロ監督、半魚人映画かと馬鹿にしてすみませんでした。さすがアカデミー作品賞だけある。最後の最後で、すべてがすっと腑に落ちました。
そもそも、The Shape of Water 「水の形」って変なタイトルだなと。あ、そうか、半魚人の話だから水か、と観始める。
このメキシコ人監督のは、スペイン映画のパンズ・ラビリンスとかいう、でてくる怪物がかなり気色悪い作品と、怪獣映画パシフィック・リムしか観たことなかった。
メキシコ人のアーティストには、ゲジ眉の画家フリーダ・カーロとか、映画監督でもなんたらホドロフスキーという、かなり変態的な芸術映画をつくる先駆けみたいな人とか、変わった芸術家がたくさんいた。メキシコはいろんな意味でまだ経済発展途上国なんだが、僕が住んでいた30年前にも、シティにはコヨアカンというNYのグリニッジビレッジみたいな芸術家の街があった。
上述の芸術家たちも苗字からわかるように、ユダヤ系だったりロシア系移民だったり、単にインディオ系(もとをたどれば彼らは3万年前にベーリング海峡を伝ってきたアジア系なんだが)とスペイン・ラテン系の混血だけでなくて、いろんなところからの移民が複雑に交わっていて、不思議な感覚の芸術が生まれる素地が多々ある国だとおもっている。よって、この国からの芸術作品は、変だけど、なんか凄いので要注意。
この映画も、案の定、この監督が作る半魚人は、不思議というか、かなり気持ち悪い。だんだん感情移入してくると、半魚人にしてはなかなかハンサム?でかっこいいやつとも見えなくはないが、基本、気持ち悪い。半魚人を愛する主人公も美女とは言いがたいし、やっぱりちょっと変で、監督のマニアックな趣味にはついていけないよなと思うが、なぜか我慢して観続ける。
逆に、監督が強い嫌悪とともに描くところは、偉そうな権力をかさにきるやつだったり、人種差別者だったり、女性蔑視の暴力的な男だったりは、その嫌悪感がよく伝わって来て、共感できる。
悲劇的だろう結末もだいたい想像できてしまう、その程度の、凡作の半魚人映画かなと油断していたら、最後の1分でやられました。参りました。デルトロ監督、お見事。このエンディングだけでアカデミー作品賞ものですね。
エンディングで、映画の語り部が、短い詩を引用して終わる。そこからさっと映画タイトル The Shape of Water がでて、たしか、エンディング曲の "You'll never know"という古いジャズが流れる。
それで、何故この映画が言葉を交わすことのない半魚人と啞の女性の話なのか、何故このタイトルなのかが、「ひとつのイメージ」としてすっと種明かしされた気がした。
さらっと言って終わったので、あとでGoogleしてみつけた、その最後に引用される詩:
Unable to perceive the shape of You, I find You all around me. Your presence fills my eyes with Your love, It humbles my heart, For You are everywhere.
(古いペルシアの詩ということなので、このYouはアラーなのかなとは思うが「あなた」と訳してみた) あなたのかたちはわからないけれど、あなたを体のまわりいっぱいに感じる。あなたがいることが、わたしの両目をあなたの愛で満たし、私の心を敬虔な気持ちにさせる、何故ならあなたは全ての場所に存在するので
要は、愛情とは、水みたいに、まわりいっぱいにそこらじゅう溢れ出て体をすっぽりおおい包みこんでくるような感覚だということか。それが、The Shape of Water 、そしてそれを描くために、この話を半魚人と唖の女性の愛の話として語りたかったということでしたか。
最後のボーカル曲 "You'll never know" はあまり演奏されることないのでジャズのスタンダードとは言えず単なる古い歌謡曲なんだが、何故かきいたことあるなあと思ったら、70年代の "Alice doesn't live here anymore" というシングルマザーの映画でも何度もでてくるモチーフとして使われてた曲だった。小粒のいい映画だった。たしか、回想シーンで何度もでてきた。 You'll never know just how much I miss you というような歌詞の、思い出の片思いの唄だったか。
言葉がかわせず伝わらないもどかしい気持ち。それが、撃たれて死んだと思われた女性と一緒に飛び込んだ海の中で、水に囲まれて、半魚人と唖の女性は抱き合って、初めて二人で自由に泳ぐ。そんなイメージで終わる。なんだか、とても美しいものを見せてもらったようで、最後にほっとした。
エンディングロールを辛抱づよく聞いていると、懐かしい感じのジャズピアニストのデューク・ジョーダンみたいな(たぶん本人でなくて最近の人か)温かいピアノのアドリブソロが聞ける。いいなあ。映画本編がこの短い詩と歌謡曲のための序章にすぎなかったみたいな、あるいは、映画全体がこの曲のための2時間の長いミュージックビデオみたいだったような、ある意味、贅沢な芸術作品だったなあと思った。こんな大掛かりでかなりマニアックなことを商業ベースで実現させてしまうハリウッドは、やはりなかなか凄い。
You’ll never know: