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近未来SF連載小説「惚れ薬アフロディア」No. 12 エピローグ(最終章)

Previously, in No.1-11:


強烈な爆風ですべての岩島の頂上のパーティ参加者は地面になぎ倒され、気を失う。爆音で鼓膜をやられ耳から血をながしているものもいる。さらに爆風が簡易トイレのタンクの糞尿を岩島の頂上のパーティ会場中にぶちまけた。耐え難い異臭がただよいはじめる。

すべての照明がいったん破壊されるが、すぐに礼拝堂にあった非常灯がついて広場を照らす。ライブカメラのほとんどはなぎ倒され壊れたが、Mr.Xがアレンジしていた避雷針につけたカメラが作動を開始、同じく爆風のあとに新たに島陰から飛ばしたドローンも作動し、惨劇の映像を世界中にネット経由でライブ配信はじめる。

非常灯に照らされ、カメラが倒れた人々を容赦なく映す。

多くが、糞尿にまみれて気絶して倒れているか、爆風を受けて鼓膜が破れ強烈な耳鳴りと痛みに喘いでいる。

元EU議会副議長のMは、元英国首相のSから音声チャットをうける。

「お気に召してくれたかね。Mr.Xのアレンジのショーは」

「驚いたよ。あの映像のキャプションが決まりすぎてたな。『独立の英雄たち みんなクソまみれ』か、なかなかえげつない演出だった」

「敢えて殺傷能力は低いが爆風効果が強い新型爆弾を使ったそうだ。鼓膜が破れて1日2日は耳が聞こえんだろうがね、多くは命には別状ないらしい。トイレ中の10人くらいの犠牲は残念だったがね。タキシードにドレスの英雄たちは美食ピンチョスどころか自らの糞尿の中で頭痛で呻きながらのた打ち回っている最中といったとこだ」

「ぶざまな姿だ。レファレンダムでやつら独立維持派の人気はがた落ちになるだろうな」

「我らが Evil Beauty 邪悪な美も、爆風で吹き飛ばしておいた。深層心理暗示が作動していればもうあの人格は彼女には出てこない。爆発も物的証拠は見つからんだろうから、トイレのメタンガスにタバコの火が引火しての爆発、主催側の会場管理の不手際の事故ということになろう」

3人の首脳たちは、強烈な耳鳴りと頭痛にたたきつけられた地面でのた打ち回りながらも、だんだんゆっくりと身を起こしていく。

非常灯の光の中で、お互いの生存を確認する。

耳が聴こえず言葉が出せず喋れないが、お互いの顔をみる。

イニェキ・サラサーテは呆然とし青ざめている。ついさっきまで熱弁をふるっていたジョセップもまだ何が起こったかわからないという顔をしている。

カムリのオワイン・ルウェリンが二人に何か言おうとしている。

音にならず言葉にならないが、3人の共通語である英語で、なにか言おうと口を動かしている。体中が糞尿で汚れ、その顔の表情さえよくみえないが、なぜかルウェリンは笑みをうかべている様だった。

ルウェリンは、
" I N  F U L L   O F  S H I T S "
「く・そ・ま・み・れ」

と何度も口を動かしながら、笑って、イニェキとジョセップの顔を指さす。

ジョセップも思わず笑いだす。

笑うとどこかがひどく痛むのかうっとひどい表情をするが、笑う。
そしてほかの二人を指さして、「くそまみれ、くそまみれ」とゆっくり口を動かす。

しまいにはショックで呆然としていたイニェキ・サラサーテも笑う。
「くそまみれ、くそまみれ」と口を動かしては、声にならない大笑いをする。

三人はお互いを支えながらよろよろと立ち上がる。

上空を撮影ドローンが飛んでいる。

三人は肩を組んで、ドローンに向かって笑顔で力強いガッツポーズをする。

それが後に、『クソまみれても前進、独立のリーダーたち』としてキャンペーン映像に使われて、レファレンダムで独立派を優勢に導いたショットだった。

倒れていたリュイスは気が付くと、横に同じく倒れていたまだ意識のない朋美を抱き起す。

生きていた。

抱き起されて、朋美も気を取り戻す。

二人は抱き合う。なにか言おうとするが二人とも鼓膜が破れていてうまくしゃべれない。生きていたことを喜びあう。

リュイスが汚れてしまったタキシードの内ポケットをさぐると、なにかを取り出す。

手をタキシードの裏地でぬぐうとその手でそのポケットから取り出した薄手の箱を開ける。中には指輪がはいっていた。

リュイスはその指輪を抱きかかえた朋美の目の前に示す。

1カラットのダイヤモンドが、暗がりの中で淡い非常灯の明かりを受けて輝く。

朋美はそれを呆然と見つめている。そのダイヤモンドの輝きがなんなのかわからないという表情で。

「なにしてんだよ」

朋美の脳裏に聞き覚えのあった声がその時聞こえた。

「ぼーとしてないで、YESって言っちまいなよ」それはワル美の声だった。

「こいつ、惚れ薬野郎でワルだとおもってたけど、案外よさそうな奴だよ。こんなやつめったにいないよ。さあ、さっさと応えてやれよ」そういうと、消えた。

朋美は、3日も飼い主にあっていなかった子犬があまりにも嬉しすぎて声もでないのに飼い主の周りを飛び跳ねるように、頭を縦に何度も何度も振って目を輝かせて声なき声で、"YES" と答えた。

リュイスは指輪を朋美の手にはめる。

ふたりは糞尿の強烈な匂いも躊躇せず、抱き合って、とても長く熱い口づけをかわす。

もうにおいなんて、どうでもいい。絡めて吸う相手の舌と、お互いが求める相手の唾液の味に、生きている奇跡を強く感じていた。

朋美は、場違いにも、幼少時のある果物の体験を思い出す。

シンガポールで年に2回、そのシーズンがくると父親が屋台に食べに連れて行こうとしてたあの果物。

朋美はその異臭を放つ果物が大嫌いで、それが生理的に受け付けられないと父親と屋台にいくのを拒んでいたが、ある年、14歳の年に思い切って鼻をつまみながらその果物を食べてみた。

果物の王様ドリアン。

熟すと糞尿のような強烈な臭さを発するが、その果肉の味はとろけるような甘みがあり、それはパティシエが作った砂糖菓子のように、とても濃厚な甘さだった。

リュイスとのキスはその濃厚な甘さそのものだった。

どんなに臭いもの汚いものにまみれたって、これからは、この人といっしょに生きていこうと思った。 


(完結) 

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとはこれっぽっちも関係ありません。医学的な知識はまったくでたらめで、SFなので政治的な内容はまったくの妄想で幾ばくかの根拠もありません。

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