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近未来SF連載小説「惚れ薬アフロディア」No. 10-2 邪悪な美(2)

Previously, in No.1〜10-1  (全12回の予定):

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「Evil Beauty、コンバンワ。どうだね調子は?」

皆が寝静まった深夜、携帯の会議アプリ Zoon から50代の英国人男性が英語で語りかける。

「Mr.X、調子は、まあまあです」

朋美の別人格のワル美が支配した朋美が、なぜかスコットランドなまりの英語で応える。

「君は去年ヒットしたBBCのTVシリーズのスコットランドの女スパイに話し方が似ているな」

「私、あのドラマのレイチェル、大好きなんです。男に裏切られた過去をスパイ工作を通じて復讐していくプロットが最高です。朋美が観てたので知ってるんです」

「そうか。まあ、ドラマじゃないんでそんなに熱くならなくてもいい。我々の任務はもっとシンプルで、すかっとする成功よりもミスのない実行が大事だからな。

君の役割は、ひとたび我々が計画をアクティベートさせたら、指定の場所にいってただひとつの事を実行する。そしてその場からなるべく遠ざかるということだ。TV映画のレイチェルみたいにドンパチやるわけではない」

「パーティ会場で具体的にはどうしたらいいんですか?」

「まあ焦るな。まずは、君の1月の誕生日に我々からのギフトであるパースと腕時計を受け取ること。それが大事だ。そして2月のバレンタインの夜にそれをつけてバスクの絶壁の教会のカクテルパーティ会場へ行く。そしてあるタイミングでそれらを指定の場所に置いてそこを去る。それだけだ」

「まだ段取りがよくつかめていませんが。事前には、日中の間は朋美がアクティブだから、朋美が怪しまない形で配送されてくるギフトを受け取ることは難しいと思いますが」

「それは心配しないでほしい。我々の工作員が既に朋美の親友のアンドラ人のノエリア・プジョルに接触済。今やノエリアのボーイフレンドになったハイファッションEコマースの社長を名乗るその工作員が、1月の朋美の誕生日にノエリアと彼からのプレゼントとしてそれを贈る手配をしてある。晴れの場の2月のカクテルパーティに行くのにふさわしい高級品として」

「そのパースとかがなんなのか聞いていいですか?」

「爆発物と起爆装置。だが心配するな。爆発物を粘土に塗り込んだプラスティック爆弾を進化させたもので、繊維に爆発物が織り込んであり洋服でもパースのようなものにでもできる。特殊な繊維構造が高い爆発を促す。それなのに金属探知にもひっかからないし爆発物警察犬も嗅ぎ分けられない。起爆装置の起動がなければ落としたり熱したりしてもなにもおこらない。そんな新型爆弾だ。外見はどう見ても、たんなる上品なパースにすぎない」

「殺傷能力は高いんですか?」

「高いともそうでもないとも言える。でも、着実に強烈な爆風は起こるから、オレは爆発の100m以内にはいたくないな」

「それをどこに?」

「それは後日指令を出す。まあ、ヒントを言えば、古いアメリカ映画のゴッドファーザーでアル・パチーノがレストランで拳銃で警官を撃ち殺すシーンをYooTubeで探してみておくんだな。あれはいい映画だ。朋美は観たこと無かったか?」

「彼女、暴力描写の映画は嫌いだから、観てない。いいわ、私、こっそり夜遅くその動画を観てみる」

「朋美とリュイスの関係は最近どうかね?」

「あいつ、あの惚れ薬野郎、来月、バスクで会ったら朋美にプロポーズするかもしれない。

あいつなんて殺すことはないけど、ひどいめにあわせて、朋美との結婚なんてぶちこわしたい。単なる、アジア女性フェチよ。ストーカーみたいにしつこい。昔のスペイン人のコンキスタドール(征服者)みたいにアジアや南米のかよわい女性を自分の思うがままにしたいっていうタイプよ」

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2055年1月、EU議会は2040年代に独立を果たした新興加盟国を対象に、EU加盟継続の前提条件として2055年年内の独立の継続の是非についての国民投票の実施を義務付ける決議を採択した。

独立継続の是非の議論は白熱して、内容は真逆だったが40年も前の2016年の英国EU離脱是非の投票、Brexitそしてその反対派のBremain、その論争を思い出した新興国住民も多かった。

10を越える多くの独立国で、独立当初の熱狂はかなり醒めてしまっていたのは否めず、とくに固有の母国語をリバイバルさせて言語教育に取り組んだ国のいくつかではその進捗が思わしくなく、教育の現場は混乱してきていた。新たに独自の歴史観で書き換えられた歴史の教科書や伝統文化学習のカリキュラムも、教育現場では21世紀のグローバリズムに逆行すると不評だった。

2040年には2030年代半ばの世界金融危機からのセキュラーな景気回復が起こっていたが、2050年にはいると再び景気回復は鈍化、2053年には設備投資の鈍化など景気後退のシグナルが目立ち始めていた。金利政策ならびに財政支出はブリュッセルが管理するAIが各加盟国の経済情勢を最適化して政策実施していたが、その効果は国によってまちまちであった。

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1月17日は朋美の34歳の誕生日だった。

ノエリアと新しいボーイフレンドのウェールズ人のダフィットがスウォンジーに3つある日本料理屋の一番いい店を予約してくれていた。日本人の大将が切り盛りしている評判の店だった。

朋美がダフィットに会うのは2度目だったが、感じのいい30代のビジネスマンでブランド品のオンラインビジネスの会社を創業して成功させているとノエリアから聞いていた。

「トモーミ、パーティは黒のイブニングドレスでしょ?これ私たちからの誕生日プレゼント。開けてみて」

箱の中にはゴールドのチェーンの付いたシックな黒の布製のパースと、シンプルながらセンスのいい腕時計が入っていた。

「こんな高価なものもらえないわ」朋美は言う。

「いいのいいの。国家首脳とのパーティでしょ?これダフィットの会社の特注の商品で、そんなパーティでデビューできたら凄いプロモーションにもなるし。だから心配しないで。できたら、テレビカメラの前でこのロゴの部分を見せつけてきてね」と笑う。

「ありがとう。涙がでそう」と朋美も笑って、握り寿司をひとつ口に運んだ。

その店は地産地消で、ウェールズで採れるネタを中心に寿司を握ってくれる店であったが、久しぶりに来店してみると、そのクオリティはかなり上がっていた。軍艦巻きのウニがとても美味しかった。どこのウニかしらと思った。それにこの海苔もウェールズ産のはずだけど、とっても香ばしくてぱりぱりしてて美味しい、と思った。

ちょうど誕生日の前日の夜、リュイスからガステルガチェ島でのカクテルパーティの生体チップの入った正式な招待状とカーディフ空港からビルボ(旧ビルバオ)空港までのフライトのチケットが同封された手紙が届いていた。

私の人生で一番幸せな誕生日。そう心の中でつぶやいた。

(No. 11 「絶壁の教会」に続く)

今後の連載予定:
No. 11 「絶壁の教会(ガステルガチェ)」
No. 12 「エピローグ」

この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとはこれっぽっちも関係ありません。医学的な知識はまったくでたらめで、SFなので政治的な内容はまったくの妄想で幾ばくかの根拠もありません。

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