名大理系数学2023を解く
2023年に実施された名古屋大学の入試のうち数学(理系)の問題について全体的な感想と各大問のポイントについて見ていく。
まず全体の感想から。
この年の出題分野は大問1が恒等式メイン+複素数(少し)、大問2が円を題材にした関数→後半は計算以外軽めの微積、大問3が数Ⅲの微分、大問4が恒等式となっている。数Ⅲは思ったよりも控えめで数A(確率、整数、図形)や数B(ベクトル、数列)からの出題もなく、数Ⅱが割と多かった印象を受けた。大問1と大問4で恒等式→係数比較を使い、少し似ている部分はあったが、問題の見た目が違いすぎてそう感じなかった人が大半だろう。大問1,2,3がよくある感じの問題だったのに対し、大問4は奇抜な見た目をした問題だったから、大問4の印象が少し強く残っている。
次に難易度評価だが、
2<1<<3<4
だと僕は思った。(あくまで個人的な評価、主観的な感想にすぎない。)
どれもこれも簡単すぎることも難しすぎることもないため、非常に評価に困った。人によっては僕とかなり違う評価をする人もいるかもしれない。
理由としては
大問1,2はどちらも解き方に迷うことが少なく、数学の問題をどれだけ解いたか、どれくらい理解しているかで純粋に差がつくような問題だったため、比較的簡単と判断した。
ただ、大問2は計算が厳しい側面が強いのに対し、大問1は数学が苦手な人は大問3で詰まったり間違った答えを出している可能性が割とあると感じたので大問2よりは大問1の方が難しいと評価した。
大問3は純粋に計算していくだけなのだが、計算が非常に面倒なのと、おそらく作成者側が要求する解答を書くことを考えるとそれなりに時間を取られるのは確かなので少し難しめと評価した。ただ、がむしゃらに解答を仕上げるだけとするならもっと簡単と見積もってもいいかもしれない。今回はあくまで理想的な解答を仕上げるという観点で判断した。
大問4は見た目が難しく見えるのは同意するが中身は本当に呆気なくて数学が得意な人なら瞬殺できるだろう。逆に苦手な人は手も足も出ないだろうと感じた。僕はそこまで難しく感じなかったのだが、おそらく得意不得意の補正がかかっているのでそこを考慮して難しめと位置づけた。
と評価しているのだが、周りの評価を見ている限りだと、どうも大問1,2よりも大問3の方が簡単としているらしい。素直に計算すればなんとか解けないこともないというのが大問3なのでどの問題にも手が出ないと思ったら大問3にかなり時間を使ってでもいいから合わせたほうがいいだろう。
では、各大問ごとのポイントを見ていこう。
大問1
(1)は$${\alpha}$$と$${\bar{\alpha}}$$について成り立つ式を証明するよう求められているのだから、もちろん$${\alpha}$$と$${\bar{\alpha}}$$についての条件式を整理してそこから証明の糸口を掴めばいい。
今回の$${\alpha}$$と$${\bar{\alpha}}$$についての条件式は
$${|\alpha-1|=1}$$
$${{\alpha}^4-p{\alpha}^3+q{\alpha}^2-r\alpha+s=0}$$
$${{\bar{\alpha}}^4-p{\bar{\alpha}}^3+q{\bar{\alpha}}^2-r\bar{\alpha}+s=0}$$
この3つであるから、そのうち一番上の式を使えば導ける。別にここまでしっかり考えなくてもできるだろう。
(2)のポイントはただ1点だけである。それは$${x^4-px^3+qx^2-rx+s=(x-\alpha)(x-\bar{\alpha})(x-\beta)(x-\bar{\beta})}$$という式を恒等式として処理することである。
$${x^4-px^3+qx^2-rx+s=0}$$が解$${\alpha}$$,$${\bar{\alpha}}$$,$${\beta}$$,$${\bar{\beta}}$$を持つと来たら上の式はたやすく立式できるから、あとは右辺を展開して両辺の係数を比較すれば簡単に求まる。
そして最後に(3)だが、ここで少しだけ領域がらみの問題が出てきて苦手意識が出てきた人がいるかもしれないがこの問題単体で眺めると別に何らたいしたことはないのでできれば取っておきたい。
むしろ僕が心配しているのは「文字の取りうる範囲」に対する注意を怠っている場合である。これは以前にも書いているかもしれないが、文字が出てきたらかならずその文字の取りうる範囲を確認しなければならない。この意識がないのに答えが出ている人、ちょっとズレた解答を書いている人は普段から数学の問題を適当に解いている可能性がある。適当に解く癖はなかなか治らない。(実際に高校生の時の僕がそれである。)だから、一刻も早く問題に取り組む姿勢を少し見直したほうがいい。
逆に文字の取りうる範囲さえちゃんと抑えられていたら名大の受験生のレベルとしてはかならず取れる問題なので落ち着いて解いていこう。
大問2
この問題は非常に計算が面倒である。これに尽きる。名大の過去問はまだ2024,2023の2年分しか解いたことがなくてこの手の計算が非常に面倒な問題がどれまでたくさん出るのかというのは僕は知らないのだが、この手の計算が厳しい問題をビシッと合わせる力は必要かもしれない。東大や京大と違って1問に35分以上かけられるから時間の心配よりもミスをしていないかに集中しておいたほうがいいだろう。東工大にも計算が面倒な問題はあるが、計算が面倒な問題は解法も難しいことは比較的少ないのでこういう問題が来たらむしろチャンスくらいのつもりで挑んだほうがいいだろう。
解法に関しては特に言うことがないただの微分の問題である。
大問3
微分して共有点の個数を求める問題だが、ポイントは(2)でここで(1)の誘導を上手く使うのだがこの形で微分しようとは普通ならない。この問題は手を動かさずとも微分して増減を調べればいいことは分かるから、いろんな形で微分して上手くいくのを探すのが正しいように思える。
実際に今回は$${x<0}$$であることを利用して割り算を使っていくのだが、ここで1つ知っておいて欲しいのは$${(f_{(x)}e^x)'=(f_{(x)}+{f_{(x)}')e^x}$$である。
「ただの積の微分じゃん」とは思うかもしれないが、そういうことではなく、$${e^x}$$に関数がかけられている形は微分しやすいということである。これを考えれば(1)で次のような解答を書くことができる。
そして(2)でもそれを活かして$${x}$$で両辺を割ってから微分すると(1)を上手く使える形になるのだが、ちょっとこれは難しいと言っても過言ではないだろう。(正直な話、大問4よりもこっちの方が難しく感じる人がいてもおかしくはない。)
もし(2)で上手く微分できなかったら次のような解答を書かざるをえないのだがあまりおすすめできるものではないだろう。
どちらも簡単にグラフが書ける関数である以上こう書きたくなる人がいるかもしれないが、どうしても感覚寄りの解答にならざるをえない。実際こんな感じで2つ共有点を持つというのは正しいのだが、問題は答えがあっているかではなく、解答に適切な論理性が伴っているかどうかである。これと似たような感じで(3)も解答を書こうと思えば書くことができるが、それで本当に丸がつくかは怪しいだろう。(実際、(1)を誘導として利用することで(2),(3)の解答が作成できる以上大学側の出題意図はこっちにあり、この解答が想定されているとは到底思えないし、仮にバツをつけられても文句は言えないだろう。)
他に何も思いつくことがない、手詰まりの状態でなら一か八かこの解答を書くのは仕方がないがそうではない限りグラフに頼った解答はできる限り避けたい。また、グラフを使って書くならそれっぽい記述で補助を足しておくともう少し点数が入る確率が上がるかもしれない。(まぁそもそも丸がつくならこんなことを考える必要もないのだが)
大問4
これがぱっと見一番手強そうだったし、こういう見た目でビビっちゃうタイプの問題のほうが一般的には難しいのかなと思って一番難しいと位置づけた。
この問題のテーマは母関数で高校数学として本格的に扱うものでもないので慣れていないと何をすればいいかが分からなかったかもしれない。そもそも数学が苦手な人にとってはΣが出てきただけでパニックになったかもしてない。(名古屋大を受けるならそこまでではないかもしれないが。)
ただ、重要なのはこの問題を見て「母関数ね」となることではなく、恒等式として捉えて恒等式で重要な操作:①数値代入②係数比較をちゃんと行うことである。では詳しく見ていこう。
まず(1)だが、ここでは数値代入をすれば一発で示せる。ここができるかどうかで恒等式だと分かっているかが分かるのだが、分かっていれば$${{P_n}_{(x)}}$$に何か具体的な値を入れて$${n!}$$になる$${x}$$を探すだけなのですぐに$${x=1}$$を代入すればいいと気づく。
続いて(2)だが、この問題を解くにはどちらかに着目したい。
まず1つ目は$${{P_n}_{(x+1)}}$$でこれに目をつけたなら実際に$${{P_n}_{(x)}}$$の$${x}$$を$${x+1}$$に置き換えて見ると証明完了に一歩近づく。
もう1つが二項係数とすべての項にかけられている$${{}_n \mathrm{B}_m}$$でまずはこれをくくってみるとよく見る$${(x+1)^m}$$を展開した式が浮かび上がってくるので簡単に証明が終わってしまう。
多分後者に気づいた方が圧倒的に簡単に解けるがどちらに気づいてもおそらく証明できるだろう。$${{}_n \mathrm{B}_m}$$なんて見たことはないが、見たことのないものに怯えずじっくりと問題を、証明すべき事柄を眺めておきたい。
この問題では少なくともここまでは普通に取りきりたい。いくら見た目が難しいからと言っても(1),(2)が取れないとおそらく他の受験生と差がつくだろう。
そして(3)だがこれは本番、できなかった人がそれなりにいるだろう。
僕の解答でもちょっと伝わりづらそうだと思ったのであえてどこに視点を置いているか、何を考えた変形なのかを付け足したが、ちょっと僕の書き方が悪くてイマイチ伝わりきっていないかもしれないのでここでもう少し書き足す。
まず、この問題で僕が最初に思ったのは右辺の$${{}_n \mathrm{B}_{k+1}}$$でこれが$${{P_{n+1}}_{(x)}}$$の$${x^{k+1}}$$の係数であるから、この問題のゴール、証明の決定打はおそらく係数比較だろうということである。この問題が恒等式を上手く使う問題だから、数値代入か係数比較を使うだろうという考えのもと証明すべき等式を眺めればこのように考えられるだろう。
そして係数比較をするなら、$${{P_{n+1}}_{(x)}}$$を何かしら2通りで表さなければならないので、一旦の目標を$${{P_{n+1}}_{(x)}}$$にまつわる等式の準備とする。(要するに解答の(#)の導出である。)
ここで僕は二項係数にまつわる等式の証明を思い出した。
これは知らない人がわりといるかもしれないが、知っておいてもいいだろう。これも母関数が絡む、係数比較を使った証明で僕がこの問題を解いていたときはこの証明を頭に思い浮かべながら解き進めていた。
多分、この証明を知らない人はこの問題で必要な経験値が不足していて解ききれない人が多かったとは思うのだが、この(3)は普通に難しいので別に仕方がない経験不足と言えるだろう。(個人的にはこの(3)の前に「$${{P_{n+1}}_{(x)}=x{P_n}_{(x+1)}}$$を証明せよ」という問題が入っていてもいいのでは?とは思ったし、その誘導さえあればおそらくそれなりの受験生が解き切れたのではないだろうかと思っている。)
$${{P_{n+1}}_{(x)}=x{P_n}_{(x+1)}}$$が導出できてからは両辺の$${x^{k+1}}$$の係数を比較していく。ただ、$${x{P_n}_{(x+1)}}$$の$${x^{k+1}}$$の係数を出すのが難しく、(証明すべき等式の左辺になるだろうということは分かってはいるのだが。)僕自身解答を書いていて頭が混乱した。(もしかするとミスがあるかもしれないのであったらコメントしてほしい。)
ただ、捉え方はすでに書いたとおりで、Σを取り外して考えてみると上手いこと式変形できるだろう。もしかすると、式変形を狙うよりも$${m=1,2,3,…}$$の式をすべて書き出してそこから$${x^{k+1}}$$の係数は〜とした方が良かったかもしれない。
こうして係数比較に持ち込めば証明が完了する。
これでこの記事はおしまいです。(締め方がイマイチ分からない…)
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