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場数を踏みながら原点に戻れる場所【辻歩さんインタビュー】

Radiotalkで活躍する音声配信者「ラジオトーカー」を紹介していく連載インタビュー企画。今回は、番組『アナウンサーが喋りのスランプから脱するため自分の喋りと向き合うラジオ』を配信する辻歩さんをフォーカスします。

辻さんは大阪府出身の30歳、現役アナウンサー。大学進学を機に上京し、卒業後に入社したテレビ高知でキャリアをスタート。2017年末に退社し、翌年2月からABEMA(当時はAbemaTV)に所属。現在は『ABEMA NEWS』キャスター、スポーツ実況で活躍しています。

 現役の喋りのプロである辻さんがRadiotalkでの音声配信を始めたのは、2022年1月末のこと。より確かなフリートーク力を身につけるべく、自身の番組をスタートさせ、現在に至ります。そんなレアケースが生まれた経緯、その中で得たもの、そしてこれからについて、本人に聞いてみました。

(取材・文/鼻毛の森) 

夢の局アナを経て、新メディアに希望を託す。

 ――アナウンサーを目指した理由から、お聞かせください。

辻:まず、小さい頃からテレビのバラエティ番組が好きで、とにかく放送局で働きたかったんです。東京での大学生活では、お笑いサークルに所属し、漫才やコントで舞台に立ちながら、ライブ制作などに携わっていました。ちなみに、アナウンサーという立ち位置を意識し始めたのは、2~3年生の頃ですかね。

――最初からアナウンサーを目指していたわけじゃないんですね。

辻:どこかのまとめサイトに「放送研究会と掛け持ち」とか書かれていましたが、実際は一瞬も所属したことがないんですよ(笑)ただ、お笑いサークルで活動していると、イベント系のサークルなどからMCや盛り上げ役の依頼が来るんです。そこで、仕切り、回しの楽しさに目覚めました。

――新卒ストレートでアナウンサーになったのですか?

辻:キー局から始まり、準キー局以降はツアーのように全国の局を受験して、やっと拾ってもらった感じでした。テレビ高知での3年間では、夕方のワイドのキャスターなどを経験させてもらいましたね。

――順風満帆にも見えますが、なぜ退社を?

辻:地方局では特に顕著なんですが、テレビでニュースを見る人、つまり僕たちアナウンサーが情報を届ける対象が、どうしてもご年配寄りになるんですね。一方で僕自身は、今の世代に今の感性でニュースを届けたいという思いが強くなっていきまして。当時のABEMAはまだ開局2年目。これから創り上げていく空気があり、思い切って飛び込むことにしました。

――新しい世界に、不安はなかったのですか?

辻:逆ですね。「この先何十年、アナウンサーを」と考えたとき、自分の言葉で喋る機会が限られる中、原稿を的確に読む技術を極めても、「いつかはAIに取って代わられるのでは」という不安を覚えたんです。アナウンサーという職業そのものが時代に置いて行かれないよう、新しいメディアを作る未来に賭けました。

きっかけはトークのスランプ!

――Radiotalkの存在は、どのようにして知りましたか?

辻:番組を始めたのは2022年の1月末なのですが、アプリ自体は1年半ほど前から“聞き専”で使っていました。お笑いサークル時代の同期が芸人・Gパンパンダの星野君で、彼がコロナ禍で配信を始めたので聞こうと。実は結構前に、彼の番組の配信にも出たこともあるんですよ。

――自身で配信を始めたのは、星野さんの影響を受けて?

辻:それとはまた別の理由でして。ABEMAって、ニュース担当曜日は朝9時から夕方6時までほぼ出ずっぱりなのですが、若い人向けのメディアなので、ニュースを伝えつつ、小難しい時事や用語を、かみ砕いて解説するコーナーも用意しているんです。革命的にスタッフが少ないことから、話の内容は割とフリーなのですが、そこでスランプに陥ってしまったのがきっかけです。

――テレビを拝見する限り堂々とした印象を受けましたが。

辻:新年を迎えたあたりから、自分の言葉は伝わっているのかどうか、客観的に見られない部分が出てきて、工夫するほどドツボにハマる感覚がありました。ニュースを咀嚼しすぎて情報不足になっていないか、情報を足しすぎて分かりにくくなっていないか……完全に迷子です。なので、自分の言葉で話す場、その数を求めて、アプリを活用することにしたんです。

――入り口がストイックですね。

辻:藁をもつかむ思いでした。テレビ局ってラジオ兼営のケースも多いのですが、高知時代はテレビのみ。ABEMAには社員の(専属の)男性アナウンサーが僕しかおらず、大先輩に学ぶ機会もなかったんです。ただ、三四郎のオールナイトニッポンを愛聴しているので、ラジオ自体への漠然とした憧れはありました。

――局アナが音声配信、上司や同僚はなんと?

辻:まず、配信していること自体、誰にも言ってなかったんです。むしろ今回の取材をお受けするに当たって、はじめて上司に報告しました。

――え?勝手に音声配信したと、怒られないんですか?

辻:母体が「サイバーエージェント」なので、会社自体が社員のSNS発信にも寛容で、報告した上司も「あ、そうなんだ」って反応でしたね。むしろ、この記事がアップされることで「トークに悩んでいたことがばれるんだなあ」と、僕の方が複雑な気持ちです(笑)。

聞かれたくないような、聞かれたいような……

――第1回の配信の瞬間、覚えていますか?

辻:悩んでいるピーク時だったので、聞き返して「へたくそだな」と思いながらも、配信ボタンを押した記憶があります。実は、配信を始めたことは、Twitterも含めて誰にも伝えなかったですし、今も触れていません。「誰も聞いていないだろう」という安心感と、「誰かに聞かれているかも」の狭間で、淡々と場数を踏んでいます。

――いつ頃から、見つかり始めたんですか?

辻:見つけた人って、まだまだ超絶レアじゃないですかね。ただ、何回かやっているうちに、少しずつハートやネギが付き出したので、「やっぱり聴かれている」とは感じています。「やってる以上は聴いてほしい」という、裏腹な感情もあるので、隠れもしないんですが、どういう感情なんでしょうかね(笑)。

――『アナウンサーが喋りのスランプから脱するため自分の喋りと向き合うラジオ』という番組タイトルは、一度見たらなかなか忘れられないインパクトがありますね。このタイトルには、どんな思いが込められていますか?

辻:このタイトルは、第1回の配信をする瞬間の感情そのままを記したもので、そのスタンスは今も変わっていません。さすがに開始から3か月も経過しましたし、第1回~第2回に比べたらトークそのものはまとまってきたのかなとは感じていますが。

プロとして話したいことを話す。

――トーク収録の環境を教えてください。

辻:iPhoneをデスクにベタ置きしているだけですね。なので、時々「お風呂が沸きました」的な生活音も拾ってしまうのですが、Radiotalkって、基本スマホマイクそのままで綺麗に録音できるんですよね。よくできたアプリだなって感心してしまいます。

高度な録音機能に日々感心する辻さん

――トーク収録のタイミングを教えてください。

辻:僕は水曜木曜の日中がニュース担当なので、ニュース絡みのトークについては、その曜日の帰宅後が多いですね。夜9時に帰宅するので、食事して、お風呂に入って……寝る前に録っていますからけっこう遅めです。

――ニュースのチョイスはどのように?

辻:その日の反省点のリベンジとして配信していますので、テレビでの解説が不本意に終わったニュースを選んでいますね。ですので、本番中に「この話題はRadiotalkでもう一度取り上げよう」と思う時もしばしばです(笑)

――あくまでも、テレビで話したかったことを喋るんですね。

辻:ニュースとスポーツについては、内容も、スタンスもテレビニュースと全く同じ感覚で臨んでいます。あくまでもテレビでのスランプを脱出するためにやっているので「テレビでは話さない話」はしません。「アナウンサーは自分語りをしない」が鉄則ですし、若い人が耳を傾けたくなる理想のバランスに挑む、練習の場にしています。

――スポーツとニュースは、伝え方を変えたりしてますか?

辻:スポーツに関しても、ニュースっぽい側面から話すようにしています。『ABEMAでW杯が放送されることをきっかけに、スポーツの無料放送・有料放送のあり方について語った回』などがいい例ですね。とはいえ、試合中継を見て興奮冷めやらぬ内にアップしたFリーグについて語った回など、熱量に後押しされるときもあります。

偏ることなく、バランスの取れた喋りを。

――これまでの配信で特に印象に残っていることは?

辻:「ニュース解説に疑問があったら送ってください」と呼びかけたときに、実際にリスナーさんから質問をいただいたことですね。まさにABEMAが求めている、若い人からの忌憚のない意見をいただけたり、トークへの感想から、若者が今、何に関心があるのか、ニュースをどこまで嚙み砕けば興味を引くのか、いい塩梅が前よりは見えるようになりました。

――自分の中で、これは会心!と思えた回があれば教えてください。

辻:ニュースの放送で喋ってみて、難しい話をしすぎたなと思った日に「大枠だけをしっかり喋ろう」と意識して録音した「円安」回ですかね。若い人向けのニュースの入門編として、出来上がりに手ごたえを感じました。「これなら同世代に興味持ってもらえるのかも」と思えたんです。

――番組を配信するうえで、大切にしていることはありますか?

辻:「偏らないこと」に尽きますね。バランス感覚こそ、報道に携わるアナウンサーが大切にするべき技術だと思っています。争点のあるニュースでも、両側に立てる安定感を持とうと。あと、仕事と睡眠しかしていない独身男性の部屋ですが、家バレだけはしないように、と決めています(笑)。

――自分らしさを出せた、と思える回はありますか?

辻:フリートークの線引きはまだまだ模索中なのですが、考え方として等身大のものは時々上げています。アナウンサーという仕事に感じている疑問、率直に感じること。『正しい日本語に縛られすぎて表現が制限されるのはどうか』というトークでは、言葉で表現することに対する、自分なりの率直な気持ちを語りました。

炎上がない場所だから、挑戦できる。

――Radiotalkを続ける中で感じた、自分の中の変化はありますか?

辻:スランプに陥っていた配信前は、「喋りの仕事が向いてないかも」と思ったこともありましたが、場数が踏めるようになって余裕ができたことで、「お喋りが好きなんだ」という初心に改めて気づけました。実力の有無ではなく、好きかどうかに気づけたことは大きいです。

――現役のアナウンサーが個人でRadiotalkをするということは、どんな点でメリットがあると思いますか?

辻:場数を踏めることに尽きると思います。高知時代は経験も浅く、出番がないときは何もできずにいましたから。ですので、「誰かが聞いているかもしれない」という緊張感もほどよい練習の場は貴重です。これからのアナウンサーには特におススメなのではないかと思うんです。

――今後、Radiotalkで挑戦してみたいことはありますか?

辻:スランプを脱した先には、きっと今のコンセプトでは続けられないと思うので、将来的にやるとしたら、誰かとコラボ配信的なことをやってみたいですね。それこそ、同期にも後輩にも、Radiotalkをやってる子はいますし。あ、後輩はアンゴラ村長(にゃんこスター)です。大学時代を一緒に過ごした芸人たちと、メディアで仕事をするのが夢の1つなのですが、その第一歩として。

――辻さんにとってリスナーはどんな存在?

辻:まず、「良く見つけてくれましたね」と伝えたい相手です。そして、ベストパフォーマンスでないものも聞いてくれて、ハートやネギまで送ってくれるありがたい存在。感謝しかないですね。テレビでは、ハートもネギも飛んでこないですから(笑)。

――辻さんにとってRadiotalkはどんな場所ですか?

辻:「聴いてほしいけど、聴いてほしくない」というように、相反するけれど、どちらも実際に感じる気持ちを吐露できたり、人の多面性を尊重する土壌が育っている場所だと思います。あと、Radiotalkは「炎上しない」仕組みも強みですし、もっとニュースを語れる場所なのではないかと。炎上を恐れてニュースに触れにくい社会で、一歩踏みこんだ場所に存在する媒体は、貴重だと思います。

――最後に、記事の読者に向けて一言お願いします。

辻:トークを聞いてくださるのは嬉しいのですが、この記事がきっかけなら、まずはテレビやTwitterなど、表の僕を見てから来てくれると嬉しいですね。表の玄関から入ってきて、その中にいるRadiotalkでの僕にも出会ってほしいと思います。

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