見出し画像

書評 タイラー・コーエン 大分断

アメリカ大統領選挙の民主党指名争いのニュースで、バイデンやサンダースといった70代が競い合っているのを見ると、何とも言えない感情を覚える。現職のトランプも70代を超えており、申し訳ないがこうした高齢者たちがアメリカの政治、ひいては世界政治のトップ争いをしていることに、アメリカも活力を失っているのではないか、という印象だ。同書では、前回の選挙でトランプが当選したこと、またサンダースが善戦したことなどを挙げ、アメリカ国民は総じて、現状維持を求める人が増えていると分析する。

かつては、米国内でよく見られていた移住がなくなってしまったことや、イノベーションを起こすような企業の登場もあまり見られなくなった点などを挙げて、アメリカのいわば成熟した状況を浮き彫りにする。いわゆるGAFAのようなネット企業も出てきているが、そうした動きも限られている。また、ネットがアメリカの現状維持思考に果たした役割の大きさも指摘する。さまざまな場面で利用されるマッチング機能を挙げ、同じような階級、コミュニティーの人たちとのつながりが強化されているとの見方を示している。

もちろん、インターネットのおかげで利便性が高まったものの、その反面、以前に比べると、米国社会の活気が失われており、結果として各層の分断を招いているというのが本書の見立てだ。インターネットはさまざまな変化をもたらした側面もある一方、現状維持で「変わらない社会」を強めた側面も有しているというのが、読んでみての感想だった。

#書評 #アメリカ社会 #タイラー・コーエン