書評 恐怖の法則: 感染症と文明 キャス サンスティーン
新型コロナウイルスの感染拡大で、リスク対策として、各国でロックダウン、緊急事態宣言などが取られ、それをめぐる効果が議論されている。今回のような疫病のみならず、災害、テロ、戦争と、世界はさまざまなリスクにさらされているが、なかには「行き過ぎ」といえるようなリスク回避策がとられているような印象のあることも少なくない。
同書は、2015年に翻訳されたもので、2000年代に欧米を中心にとられた「予防原則」に基づく、さまざまな政策をめぐる考察である。2003年のイラク戦争を正当化するうえで、米国のジョージ・W・ブッシュ大統領が、「脅威が切迫する前に対処することが極めて重要だ」とスピーチしたことを引き合いに出し、新たなテロの抑え込みのための「予防」を前面に出したものの、戦争やその後のイラクでのテロなど、新たな犠牲者が出た点を踏まえ、「予防原則」がまた、新たなリスクを生み出している点を指摘する。
結論の「恐怖と愚行」では、ある人々は飛行機を怖がるが、自動車の運転は怖がらない、また他の人々は薬を怖がるが、薬を避けることのリスクは怖がらないなど、さまざまな事例を挙げつつ、すべてのリスクに対して強い予防措置を取ることは不可能であると強調する。今回のコロナをめぐる問題でも、コロナの感染リスクを避けるために、さまざまな業種の休業などが求められるなか、かえって経済全体へのリスクが生じ、練馬では商店主が自殺した事例も報道されている。リスク対策が重要なことは言うまでもないが、いかにバランスよく、リスク対策を取っていくのか。前々回に取り上げた書と同様に、(https://note.com/rrutan/n/nf80568deb8ca) 同書もその点を強く意識するには、重要な1冊だと感じる。