書評 平成金融史-バブル崩壊からアベノミクスまで 西野智彦
平成時代は、戦争がなかった平和な時代と評されることが多いが、これを読むと戦争はなかったかもしれないが、平成の金融政策という視点から見れば、「戦争」の歴史だったのではないか、という見方もできる。
著者はTBSの経済記者(元は時事通信出身のようだが)として、バブル期→その崩壊→処理→アベノミクスと、平成の金融政策をめぐる政治家、日銀、大蔵・財務省の暗闘を、緻密な取材メモをベースに、まとめ上げている。TBSというと、最近の詩織さん事件の安倍シンパの山口元記者、報道特集金平キャスターのような一部からは「反日」認定までされ、何かと話題を振りまく人たちが多いが、民放のなかでは国際報道も含めて、年末の報道特番などを見たりすると、確固とした取材力を持っている人が多く、著者も以前、他局に先駆けて拓銀破たんを、ニュース速報でいち早く伝えるまでの舞台裏のドキュメントで拝見したことがあった。
日銀対政治家、大蔵・財務省の暗闘という点では、バブル崩壊前後のキーマンとなる「鬼平」とも称された三重野総裁、アベノミクス前後に至ると白川総裁が、いかに「政治圧力」に対して、対抗していたかが浮き彫りになっている。本来であれば、政治の責任で取り組むべき問題について、やたらと日銀の「金融政策」バッシングに血道を上げていたことがよくわかる。とりわけ、黒田総裁以降の物価目標達成が、さまざまな外的要因でほとんど困難になっている現状を見ると、日銀バッシングや政治圧力はいかに無意味かを改めて思い知らされる。
また、バブル期の処理をめぐっては、当時の大蔵省銀行局の動きがやや鈍かったという印象が、今となっては否めない。ただ、そうした暗闘のなかでまとめ上げられた処理策や金融政策の過程などが、後に欧米を襲ったリーマン・ショックや欧州経済危機で、手本となったことは言い方は変かもしれないが、世界に誇っても良いかもしれない。平成から令和に代わり、著者が指摘するのは、米国のトランプ政権誕生や、英国のEU離脱などで、リーマン・ショックの時のように、危機対応で国際的な金融協調体制が取れるか、という点である。この点、金融政策でバブル期前後にさまざまな経験を経てきた日本がもしかしたら、他国に先駆けてリードできる点は残っているかもしれないと感じた。
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