失敗した日の処方箋。朝井リョウの爆笑エッセイ集「風と共にゆとりぬ」
「今日も失敗ばかり……」そんな日の処方箋、あります。
あーあ、今日も忙しかったな。たくさんミスをして周りに迷惑かけちゃうし……。
私ってほんとにダメダメだー!もう疲れた……何も考えたくない。
一日頑張ってクタクタになって、お疲れモードになってしまう日はありませんか?
お風呂に浸かって1人反省会を始めてしまったり、SNSを開いては友人のキラキラした投稿ばかり目についてしまったり……。
「本でも読もうかな」と思っても、疲れた時に難しい本は読みたくない。でも、自己啓発本やポエムも今の私らしくないと思ってしまう。
そんな時に、読んでほしい処方箋のような本があるんです。
朝井リョウのエッセイ集『風と共にゆとりぬ』をご紹介します。
朝井さんは直木賞史上初の平成生まれ・最年少受賞をした小説家です。『桐島、部活やめるってよ』や『何者』など朝井さんの小説が原作となった映画を観たことがある人も多いのではないでしょうか。
小説家として大活躍している朝井さんですが、すごいのは小説だけではないのです。
エッセイが、本当にとにかく面白いのです!
脳みその使用量、ゼロ。リアルに声を出して笑えるエッセイ集
「どうせ、小説家のおしゃれで高尚なエッセイ集でしょ?」と思うなかれ。本エッセイ集には痔のエピソードまで含まれております。直木賞作家が、ガチで読者を笑わせにきています。YouTubeのおもしろ動画を視聴したレベルで声を出して笑えるので安心してください。
『風と共にゆとりぬ』は、ゆとり世代の朝井さんが、初診を装って前作のエッセイで描いた眼科にもう一度行く話や、知り合いの弟を装ってレンタル彼氏と対決する話など、日々のしょうもないおもしろエピソードがたっぷり収録されています。主に朝井さんの数々の失敗が語られるのですが、この本によって得られる学びは何もありません。何かを学ぼうとする必要もありません。
脳みその使用量もゼロです。喫茶店で「最近、こんなことがあってさ〜」と朝井さんから話を聞いているような感覚で、あっという間に一つのエピソードを読むことができます。普段、本を読まないという人も挫折知らずだと思います。ただ、笑うためだけに安心して本を開いて下さい。
大切な人にオクラをプレゼントするエピソード
私が特に大好きなエピソードは、朝井さんが応援している俳優さんが「オクラ好き」だという情報を入手してから始まる奮闘を描く「大切な人への贈り物」です。
朝井さんはある日、ある俳優さんとの対談に呼ばれます。何か手土産を、とインターネットで下調べしたところ、その俳優さんは「オクラ好き」であることが判明するのです。
朝井さんは、対談会場である銀座でオクラを探し求めます。銀座なら何でも手に入るだろうとたかを括った朝井さんでしたが、手土産に手頃なオクラ商品は、なかなか存在しません。
結局、諦めてその日は手ぶらで対談を迎えます。
しかし、リベンジの機会はすぐに巡ってきました。俳優さんが出演する舞台に招待されたのです。
朝井さんは、今度こそオクラ商品をプレゼントするためインターネットの力を駆使して調査します。
そして、血迷った朝井さんが辿り着いた結論は……どうしようもなく間違っているのです。その結末は絶対に爆笑できるので、是非一読いただければと思います。
ちなみに、私の妹が職場の休憩室で「大切な人への贈り物」を読んだ際、笑いが止まらなくなり同僚の人から「大丈夫?」と心配されるほどだったとのことです。(妹は「姉から変な本を借りた」と同僚に答えたそうです。姉のせいにするな、妹よ。)
「私の人生、もう少しゆとってもいいかも」脳みその使用量ゼロでも、元気をくれる理由
私自身、元気が出なくて何も考えたくないときは、お風呂にこの本を持ち込みます。読んで、ひたすら笑って、本を閉じた後は、何故か少し元気になっています。なぜなのでしょう?
脳みその使用量ゼロでも、『風と共にゆとりぬ』が元気をくれる理由。それは、「私の人生、もう少しゆとってもいいかも」と思わせてくれるからだと思います。
普通なら恥ずかしすぎて3日くらいは寝込んでしまいそうな失敗エピソードも、朝井さんは面白おかしく描いて私たちに教えてくれるのです。(朝井さんも、これを書けるようになる前に3日くらい寝込んでいる可能性はありますが……。)
「失敗してはダメ」、「周りに迷惑をかけてはいけない」と怖がってガチガチに凝り固まった思考を「面白ければOKよ!」と解きほぐしてくれるのです。
人生を真面目に考えすぎてしまう人、毎日必死に頑張って生きている人にこそ、おすすめしたいくだらな過ぎるエッセイ集です。朝井さんがくれる人生の「ゆとり」に、少しの間自分をあずけてみませんか?