カラム
『aftersun/アフターサン』
大人になったソフィの姿は全編中にほんの数カットしか登場しないが、その姿と表情はとても幸福そうには見えない。たぶんだから彼女は昔のホームビデオを見ることにしたのだろう。そこになにかが映っていることを期待したわけではなく、ただ昔の一番いい旅行の思い出に浸ろうとして。しかし、彼女はビデオの中の父親のすがたと言葉に、子供の頃には見えなかったものを見たのだろう。カラムの意識が旅行中すでに死と生の世界の狭間にあったことを、ソフィはビデオを通じて知ったのだろう。
フラッシュが明滅する闇のダンスフロア、死のイメージの世界で、ソフィはカラムの姿を探し、抱き締める。カラムの眼はもうソフィを見ていない。11歳のソフィが、自分を強く抱き締めるカラムを押し離す。これは生前最後のふたりの抱擁だっただろうか。ひとりで踊り続けるカラムは、もうすでに死の世界の側に立っていることが、ビデオを見る私たちにははっきりとわかる。”なぜ愛を与えられない?”それはカラムの言葉であり、大人になってカラムを理解したソフィの言葉でもあるのだろう。死者に愛は与えられない。愛せるのは生きている人にだけ。カラムは闇へ、死の世界へ消えていく。思い出と、絨毯をソフィに残して。ソフィは振り向き、闇の世界から現実へと戻って来る。赤ん坊の声がする。ソフィの子なのかどうかは、よくわからない。でもソフィは子に愛を伝えるのだろう。カラムから受け取った愛を。カラムに伝えられなかった愛を。
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