発射できない男たち
日本のいちばん長い日(1967年)
『ジャーヘッド』を思い出す。メタファーでもなんでもなく、相手に弾をぶつけて征服するという意味合いにおいて、男にとって戦争とセックスはほぼ同じものだ。自分はセックスを征服行為だとは思わないが、そういう捉え方をする男もいる。
軍隊は敵を征服するための組織であり、敵がいよいよ目の前(本土)に迫ってきてやっと戦争だ!というところでまさに寸止めされ、戦争はもうやめだ、ズボンをはけ、銃を降ろせ、発射はなしだと言われ、征服という快楽の瞬間をひたすら待ちわびていた将校たちの情動は行き場を失った。ある者は泣き喚き、ある者は暴発し、ある者は自慰(切腹)で果てる。敵に一度も直接銃を向けられたことのない上級軍人と政治家たちしかこの映画には登場しないのはたぶん意図的なことだろう。戦争とセックスの区別のつかないアホな男たちの滑稽さと暗い情熱が全編にほとばしっている。
本編中でもっともバイオレンスなシーンである師団長惨殺の場面、反乱の一線を越えた畑中はいよいよ意気高揚するかと思えば、足腰をフラフラさせ全身虚脱に陥る。コトを済ませた男の姿そのもので、古田織部のいう「この上ない回春」じゃん、よかったねと変な感想が浮かんでしまった。
男のいう戦争の意義なんてこんなものでしかないのだなということがいやというほど伝わってくる。男の意識がこんなものであるうちは、戦争はなくならないのだろうということも。