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股関節術後に胸腰移行部で痛みが生じた症例

以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。

情報)
左股関節術後の方である。

股関節は順調に回復し、現在T字杖自立歩行である。

今回、歩行で胸腰移行部に痛みが出現するので、それについて検討した。

歩行の状態)左側は右下肢立期期 
      右側は左下肢立脚期(術側)

 右 LR      MSt      TSt     左 LR    MSt      TSt

 

Q)どのように考えればよいか?

A)脊柱の局所の痛みでは、痛み部位の過可動による周囲組織の損傷や、防御反応として、過可動椎体の安定性を高めるための筋の過収縮による痛みが多い。

特に、胸腰移行部は関節面の形状が胸椎から腰椎に変化する場所であり、脊柱の動きにスムースに対応できず脆弱である。

Q)評価では?

A)胸腰移行部の棘突起を触診しながら、体幹の屈曲・伸展を行なわせると痛みを訴える部位が過可動であった。

Q)以上の過可動な動きを念頭に歩行を観察すると?

A)前額面後面より左TStで骨盤の後方回旋による体幹の回旋が大きい。


右TSt       左TSt


Q)痛みがこの回旋と関係しているか評価が必要であるが、回旋と関係しているとした場合、何故、回旋が大きいのか?
(実際、歩行中の胸腰移行部の過可動の有無を触診で確認するのは難しく、不明であった。)

A)左立脚時間の延長により、股関節伸展だけでは立脚時間を賄えない分を骨盤の回旋で補っている。

Q)股関節伸展で賄えない原因は?

A)左股関節術後から股関節の伸展制限が考えられる。

他に、左での蹴り出し減少による立脚時間の延長がある。

Q)観察から蹴り出しの低下を判断するには?

A)前額面後面の観察で、TSt~PSwで足底の見える面積や踵が上がる高さの左右差でわかる。

Q)症例は?

A)左の蹴り出しが弱かった。

Q)左の蹴り出しが弱い原因は?

A)足関節底屈筋の低下や前足部剛性に問題がある。

Q)ここで、矢状面を見ると、歩幅の左右差は、右が左に比べて若干狭い。

左歩幅       右歩幅


左立脚時間が延長すれば、右の歩幅が左より広がるのではないか?

A)だとすると、左股関節伸展可動域制限が考えられる。

Q)評価では?

A)左右差で制限が確認された。

Q)股関節伸展可動域拡大の可能性は?

A)エンドフィールは硬く、これ以上の伸展は難しい。

Q)アプローチは?

A)胸腰移行部の過可動を押さえる。

Q)方法は?

A)脊椎の回旋をコントロールする筋としては多裂筋や回旋筋があり、多裂筋に関しては腰椎下部ほど大きく訓練効果がある。

また、腹横筋も腰椎を中心とした安定化作用であり、胸腰移行部への対応は低い。

そこで、胸腰移行部の安定化に作用するものとして横隔膜がある。

横隔膜


AnneM,Gilroy 他著、坂井 建雄監訳、市村浩一郎 他訳:プロメテウス解剖学コアアトラス第2版より引用


横隔膜は、第6-12肋軟骨と下部肋骨に付着する。

そして、収縮により肋椎関節は挙上、外転する。

A.I.KAPANDJI 著 塩田悦仁 訳:カラー版 カパンジー機能解剖学 Ⅲ脊椎・体幹・頭部 原著第6版 より引用


この肋椎関節の動きから、胸椎の側屈で、肋椎関節可動域拡大が可能と考える。

そこで、側臥位でクッションを置いて、側屈の可動域を拡大させる。

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可動域拡大を図ってから横隔膜の強化として

腹式呼吸の吸気を強く行う。また、緊張を高めるために吸気で3秒ほど止める。

この時セラピストは、下部肋骨の動きを触診して、横隔膜の活動を確認する。

これを5分間行う。

別の方法として

下部肋骨を中央方向(下制・内転方向)に押さえた状態で呼吸を2~3回行なわせる。

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その後、セラピストは肋骨を押さえていた手を離す。

すると、下部肋骨の動きが行なわれるため、横隔膜の活動が高まる。

但し、リスクがあるため、慎重に行なう必要がある。

他に

胸腰移行部周辺の脊椎で動きが少ない箇所があれば、クッションを用いるなどして可動域を広げる。

それにより、胸腰移行部の過可動な動きを分散させる。

但し、今回は、それについての評価・アプローチは実施しなかった。

Q)結果は?

A)歩行での痛みは減少した。


最後までお読み頂きましてありがとうございます。



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