患者さんを捉える -結帯動作に制限がある症例 後半-
以下に記す症例について、見方、知識の使い方、考え方の流れが参考になれば幸いです。
情報)
30代の男性。右結帯動作に制限があり、その改善に向けて理学療法を施行した。
但し、結帯動作に制限をきたす既往はない。
結帯の肢位
前額面
矢状面
水平面
上肢下垂位の肢位
前額面
水平面
結帯の制限は、肩の後方関節包の上部線維の短縮の可能性があり、その組織を他動的に伸張した。
結果、可動域は拡大した。
前回は、肩関節について調べた。
今回は、肩甲骨である肩甲胸郭関節について調べる。
Q)どのように調べるか?
A)肩関節と同じように、各方向の左右差を元に考えていく。
Q)各方向の状態は?
A)前額面は問題ない。
Q)下垂位と比べると右肩甲骨が挙上しているように見えるが?
A)右肩関節が外転しているので、それに伴って肩甲骨が挙上・上方回旋している。
Q)矢状面は?
A)右は左に比べて、肩甲骨の前傾が少ないように見える。
Q)これは?
A)これだけでは何のためかわからないので水平面も見る。
水平面は右が左に比べて肩甲骨の屈曲(外転)が少ない。
また、左の肩甲骨内側縁が胸郭から浮き上がっているが、右では見られない。
Q)ここから見えてきたことは?
A)結帯動作のために肩甲骨を屈曲、前傾させている。
Q)これは?
A)上腕骨が動かないとした場合、肩甲骨を屈曲させると肩関節は相対的に外旋する。
結帯動作は、肩関節内旋の可動域がかなり必要である。
肩甲骨をその肢位に持って行くことで、肩関節内旋を少しでも減らそうとしている。
Q)では、肩甲骨の前傾は?
A)肩甲骨屈曲時と同じように上腕骨が動かないとすると、肩甲骨の前傾で肩関節は相対的に屈曲する。
屈曲は肩関節上部組織を緩ませる。
Q)と言うことは?
A)障害がない左肩関節も後方上部の組織は短縮している。
恐らく、後方上部組織を最も伸張させる結帯動作は、日常で、そうそう使わないからであろう。
その制限分を肩甲胸郭関節がカバーしているので、問題が起こらない。
障害のある右肩関節では、肩甲胸郭関節によるカバーが行えないので、肩関節可動域にプラスされて制限が顕著になった。
Q)肩甲胸郭関節では、何が問題か?
A)肩甲骨を前傾、外転させる筋力低下、あるいはその方向への可動域制限である。
Q)どれか?
A)肩甲骨を外転、前傾を同時に起こさせる筋は小胸筋である。
触診の左右差で問題なかった。
逆に、その動きを押さえる筋は、菱形筋、僧帽筋(特に下部線維)である。
ここで、上肢下垂位の水平面を見ると、左肩甲骨は屈曲しているが右は左に比べて少ない。
要は、左に比べて右の肩甲骨は内転位であり、肩甲骨内転筋の短縮をうかがわせる。
評価でも、これら筋を伸張させる肩甲骨の他動的動きの左右差と、エンドフィールから筋の短縮が確認された。
Q)アプローチ法は?
A)筋の伸張を行なった。
Q)結果は?
A)可動域が拡大した。
Q)なぜ、このようなことが起きたのか?
A)上肢下垂位の左右の肩甲骨を見ると、左の肩甲骨内側縁は浮き上がっているが、右はべったりと胸郭に張り付いているように見える。
Q)それが?
A)そうさせるのは、肩甲骨を胸郭に引きつける肩甲骨内転筋と外転筋による合力である。
右肩に問題がなければ、安定した肩甲骨となるが、今回の結果からは、そうは言えない。
そもそも、この合力は肩甲骨を胸郭に引きつけ、動的安定化を図り上肢の動きの土台となる。
症例は右利きで、仕事上で上肢の力を頻繁に使う。
上肢の力を発揮させるために、肩甲胸郭関節の動的安定化作用筋がオーバーワークで緊張し短縮したことが考えられる。
それを解決させるには、右上肢の使用を減らす以外に、上記安定化筋以外の上肢使用時の安定化作用筋を調べ、脆弱筋にアプローチすることで負担が減る。
結帯動作で再度制限が起こるようであれば、安定化作用の脆弱筋を調べる必要がある。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。