#181 ブリコラージュ的な発想で作られる沖縄の紙
『紙について楽しく学ぶラジオ/Rethink Paper Project』
このラジオは、「紙の歴史やニュースなどを楽しく学んで、これからの紙の価値を考えていこう」という番組です。
この番組は、清水紙工(株)の清水聡がお送りします。
よろしくお願いします。
さぁ、ついにパリオリンピック開幕しましたね!
個人的には、開幕式がとっても印象的でした。
アート・ファッション・エンタメが色濃いパリならではの演出が盛りだくさんでしたね。
という訳で、今回はパリオリンピックにちなんで、フランスでうまれたある思想を取り上げたいと思います。
というのも、先日、沖縄の芭蕉紙という芭蕉の繊維で漉かれた紙漉きの工房を訪れたときに、同じ日本とは思えない独自の紙の文化にすごく感銘を受けたからです。
情報とか技術が共有されていて、モノも大量に均一なものが作られている今の世の中において、芭蕉紙の文化がとっても大事なことを教えてくれた気がしました。
という訳で、本題に入っていきましょう。
フランスの人類学者、クロード・レヴィ=ストロース。
現代を代表する哲学者・人類学者の一人と言っていい人物です。
レヴィ=ストロースは、100歳で亡くなるまでの間に色んな思想や概念を提唱しましたが、その中でも特出すべきなのは「構造主義」というものです。
構造主義というのは、ものすごく簡単に言うと、世の中で起こっている現象を体系的にみて、その本質的な構造を捉えよう、という考え方です。
ブリコラージュとは
そんな彼の打ち出した概念の一つに、「ブリコラージュ」というものがあります。
フランス語で「寄せ集め」や「手作り」といった意味で、日本語では、「器用仕事」とも訳されます。
そんな「ブリコラージュ」をする人のことを、「ブリコルール」と呼びます。
「ブリコルール」は、ありあわせの素材や技術を組み合わせて、新しいものを作り出す職人やクリエイターのことです。
即興性や柔軟性を持ち合わせて、計画された手順に頼らず、その場の状況に応じて、ものを作り出していきます。
そして、「ブリコルール」とは対照的に、科学的原理や技術的知識に基づいて、計画的に問題を解決する専門家のことを、「エンジニア」と呼びました。
今の時代、多くの生産現場において見られるのは「エンジニア」的な仕事です。
例えば、自動車の生産。
自動車の生産現場で働く人たちは、明らかに「エンジニア」的な動きをしていますよね。
じゃあ、ブリコラージュ的な発想が必要な場面はというと、例えば、DIYで家具を作ろう!とか、冷蔵庫の中の余り物で料理を作ろう!とか、今の貯金の範囲内で旅行の計画を立てよう!みたいな場面です。
皆さんの日常でもよくあるんじゃないでしょうか。
ブリコラージュ的な発想で作られる沖縄の紙
ここで、先ほどの沖縄の紙漉きの話を挟みたいと思います。
日本の伝統的な和紙というと、楮・三椏・雁皮のような靭皮繊維の白皮を原料として流し漉きという技法で漉くのが一般的だと思います。
沖縄にも、もちろんそのような和紙の文化はありました。
けれど、一般の人たちに広く普及したものは、先ほどの芭蕉紙とか月桃紙といった、沖縄で採れる植物の繊維で漉かれた紙です、
先日見せていただいた芭蕉紙は、麻の一種で、繊維がとっても長いので、独特な風合いがある素敵な紙です。
そして、紙漉きに使う道具も沖縄ならではのモノを使っていました。
沖縄の竹で編んだ簀とか、チャーギという沖縄の植物で作られた桁など。
まさに、一般化された技術の紙漉きではなくて、沖縄の土地で独自に生まれた紙漉きです。
先ほどの話で言う、完全にブリコラージュ的な発想ですね。
ブリコラージュ的な発想が好き
今回は、ちょっと概念的な話でしたが、僕は、ブリコラージュ的な発想も、エンジニア的な発想も、どちらとも大事だと思っている一方で、好みで言うと、沖縄の紙漉きのような、ブリコラージュ的な発想で生まれたものが好きです。
つくっている人の手触り感が伝わってくるというか、温度が伝わってくるというか。
皆さんはどう感じましたでしょうか。
芭蕉紙については、本当に面白い歴史が知れたので、また別の回で取り上げたいと思います。
はい、という訳で、今回はフランスの人類学者、クロード・レヴィ=ストロースが打ち出した「ブリコラージュ」という概念について解説してきました。いかがだったでしょうか。
それでは、本日も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。