小説『探偵はパシられる』 感想
芸人・カモシダせぶんさんのデビュー作で、ジャンルとしては連作短編型の学園青春日常ミステリーになります。
日常ミステリとは言え、ミステリーはミステリー。
事前情報は一切仕入れずに読んだ方が絶対に面白いと個人的に思います。
……じゃあ、なんでお前は書くんだよって話ですよね。うん。
びっくりすることに感想を書く手が止まらなかったんだな、これが。あまりにも面白過ぎて。
なので、この記事は感想でもありますが、ある意味で布教です。
推したいと思ったので、これを書いてます。
一応、ネタバレはありません。
とは言え、(さっきも書いたけど)ミステリーはミステリー。感想もネタバレ要素だったり、ミステリ好きは“察し”ちゃうので、あまり情報仕入れず楽しんでほしいです。
なので、まずは『私が購入するに至ったキッカケ』からお話します。
購入のキッカケ
そもそも私がカモシダせぶんさんの本を読もうと思ったのは、こたけ正義感さんの動画がキッカケでした。
こたけ正義感さんとは、芸人でありながら現役の弁護士という異色な方で、その方の『逆転裁判』実況が面白くて。
見事に逆転裁判に沼ったこたけ正義感さんは、自身のYoutubeチャンネルにて逆転裁判クイズを(非公式で)開催。その回答者の一人がカモシダせぶんさん(一番右)でした。
この動画で本の宣伝をしたときにこう言ったんです。
『逆転裁判が好きすぎてミステリー小説を出すことになりました』
ほお、それは気になる……と逆裁ファンの私は思いまして。
逆転裁判って言われちゃったら自ずと興味持っちゃうんですよ。好きだから。それに私は元々ミステリー好きですし。あと、芸人さんが書くミステリーってどんなんなんだろう? って興味を持ったんですね。
そして何より、カモシダせぶんさんはファッション逆裁ヲタクじゃなかったことも大きいですね。っていうかコレが一番の動機だったかも知れない。
そうして購入した『探偵はパシられる』。
……表面上は逆転裁判風味は感じません。表面上は、ね。
なんとなく、逆転裁判1(蘇る除く)を好きな人は気に入るんじゃないかなぁって思いました。
「どう」とか「なんで」とかは言いません。それはネタバレなので。
ただ、逆裁プレイヤーなら抵抗感がない文体とリズム(むしろ好きな方多いのでは)だし、話の運びもきっといいなーって感じると思いますし、キャラも設定も好きになると思いますよ。
私は、カモシダさんの言葉を聞いて購入した自分の判断は間違ってなかったなって思っています。
感想
さあ、読んでない方は私の感想なんか読まずに本作をぜひどうぞ!
読んでから一緒に共感しよう! ね!!!!(圧)
さて、まず「あらすじ」からして面白い。
番長のパシリをしてる高校生・岡部太朗くんを起点に、その観察眼とパシリの経験で探偵のように問題を解決していく……というあらすじ。
いやいや。
イマドキ番長?
この令和に?? というチグハグ感。
いやいや。
ナゼに探偵?
パシリなのに?? というあべこべ感。
読んでない方はこの先の感想は一切読まず、まずはこの戸惑いを持ったまま、ぜひ読んで欲しいところですね!
番長とパシリという昭和を感じる古い設定ですが、読み進めるうちにその設定と関係性が当たり前に受け入れてる自分がいました。それどころか、この設定じゃなくてはならない理由があって……バディものとしても面白かったです!
……くっ、ネタバレを配慮して何も言えねぇ……!!
この二人のココがよかったと言いたいのに……!
私としては、181ページの7~8行目の言い方が好きです。
そうだよな、パシリ! 私もそう思うよ! とだけ言っておきます。
番長とパシリくん以外の短編のゲストキャラも青春をしてて、皆いい味を出しています。
私はとある文学の先輩が好きですね。夢を諦めた凡人には刺さる言葉だったなぁ。
でも、高校生(もしくは中学生の終わりかな?)で、どう足掻いても越えられない壁や限界があることを知れるのも、ひとつの才能だと私は思いましたね。
一番じゃないけどなんとなくできちゃってダラダラ続くなんてこともあるし、攻略が無理な壁があると分かっていても諦めがつかなくて続ける選択する人もいるし。
この先輩は聡いから、自分の限界も見えちゃってるんだろうな。それで苦しくなったこと多いんだろうなーと思いつつ読んでいたら、この話の後半でパシリがすごい才能を見せててね……。
才能がないからできないと気付いてる先輩と、才能がなくてできなかったのに次第に成長してるパシリの対比が面白いなぁって思いました。
あとは、校長先生が個人的にはお気に入りです。
私の脳内では勝手に遠藤憲一さんを想像してました。
そういえば、パシリくんは神木隆之介さんをイメージしているのだとか。
めっっっちゃ、わかる!!!!
番長とキャッキャしてるときのパシリは、『意識高すぎ・高杉くん』のときのなぜか常にポジティブなあの感じの演技と笑顔が浮かんできます。
アホな子のフリをして本当は核心に気づいている。そして、どこか驕ってる部分がありながら等身大の学生ならではの素直さを表現できる人。……うん、神木くんしかいない。
あとは、そう。
ものすごく読みやすいです!
地の文がやや口語的で、文体としては文庫よりかはライトノベル寄りな印象。とは言え、崩し切ってるわけでもなく、バランスのとれた現代小説だと感じました。
また、芸人さんならではのユーモアある軽快さ、会話のテンポ、勢いのつけ方が黙読していて心地いいリズムでした。
短編であることも読みやすさを後押ししている気がしますね。
1章が長いと集中力が途切れがちですが、ひとつひとつが短いので小休止を挟みやすく、疲れにくい。
また、まとまった時間をとる必要がないので、“とっつきやすさ”のハードルをがくっと下げているのも短編集のいい点だなぁって思います(長編は入り込めば面白いくてヤミツキになるけど反動もその分デカい)。
そういった読みやすさから、初めてミステリに触れる方向けって印象で……した。数話を除いては。
全体的にマイルドな雰囲気を装ってるんですが、いくつかガチ謎があるんですよねぇ。
そういうガチな部分や、キャラ設定を生かした謎もあるので、ミステリ好きが読んでも満足できる要素がしっかり詰まってました!
あと、短編の順番が上手いなーって思いました。
『最後のあんぱん』は絶対にあそこじゃないとダメだったし、『パシリとゲノム』もあそこだったから光る。『消えたメリケン』のこともあってなおさら後味がいい。『取り立てするなら番長に』での抜け感と緊張感の緩急も絶妙。
次のキッカケとなる一文をごっそり違う章に移動して帳尻合わせたとかではなくて、ちゃんと設定がありきの“フリ”と“オチ”、そして謎になってるので……なんかこう、シンデレラフィットしてて気持ちがいい。……例え下手すぎるだろ、私。
ミステリ初心者への配慮が徹底してる丁寧さ、そして構成力が好きだなーって思いました!
どの短編も面白かったですけど、私のお気に入りは『詫び名人』、『取り立てするなら番長に』、『校長公認番長』ですね。
あーでも、『面接官はパシリ』も雰囲気がすごい好みですし、『ファーストカツアゲ』も始まり方もインパクトがあって、この本はこういうシステムで進んでいきますよっていう基盤になってる感じが好きです。ここがなきゃ始まらないんでねぇ。ラストは言わずもがな。
そうですね、私は80ページの3行目の文がすっごい好きですね。
この子、優しい子だなぁって面とちょっとした毒、言い方のコミカルさと切ない出来事がギュッと詰まってるのに胸が苦しくなり過ぎない塩梅になってる……ここが個人的にお気に入りです。
それと、なんとなくだけどカモシダさんって本好きなんだろうなぁっていうのが伝わりました。「本好きのキャラ」を通したときの本への熱量がすごい。 のちに現役書店員だし3000冊もの本を保有してたと知りました。そら、あのくらいの熱量になるかも知れない。あんまり曲げて読まないようにします……。
個人的には「あとがき」をこの本の中にないのも、すっごい好きです!
こんな面白いのに思想……って言ったら強い言葉だけど、考えてることや思ってること、思考そのものが読めない・見えないっていうのは作者に興味そそられるので好きです。どんな方だろうと調べたくなります。
実際、読み終わった後にwiki見て驚きました。
ガチの本好きだったとかそういう事実より、3000冊が焼失したインパクトの強さよ……マジか……
思わず天を仰いじゃいましたね。
でもなんか、じわじわ面白くなってくる不思議。
いや、不幸を笑ってるとかそんなつもりはないんだけど……3000冊が一気に消えたってのが、もう笑うしかない感じがする。3000冊て。あと無事で何より。
『焼けたところから残った唯一のコナン』はパワーワードすぎて、やっぱ面白い。字面も言葉も笑っちゃう。
最後に
番長とパシリの面白くて素敵な関係性や、人間味あふれる個性豊かなキャラクターたちの動きが読んでいて本当に楽しかったです。
読みやすい文体で、小休止を挟みながらどんどんどんどん読み進めて、結局一気読みしちゃいました。
いやー、本当に面白かった!
もし続編が出るなら間違いなく読みたい!
っていうか、番長とパシリをもっと見たい!
そう思えた一冊でした。
『探偵はパシられる』、本当におすすめです。
>>電子書籍版はこちら
ちなみに。
カモシダさんはnoteにて作品について書かれているようです。
どういう方を大まかに知った今、作者が何を思ったのかを知れるというのは楽しみですね!
仕事終わったら読むぞ!!