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柳原良平主義〜RyoheIZM 40〜
ピカソと柳原良平
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キュビズム
『ゲルニカ』や『アビニョンの女』などで有名なパブロ・ピカソは、言わずと知れた天才画家。その作品は、それまで主流だった写実的な絵とはかけ離れていた。
歪んだ顔やモチーフなどが独特な構図で配置され、抽象的なタッチで描かれている。この手法はキュビズムと呼ばれ、ピカソはジョルジュ・ブラックとともに、キュビズムの創始者と呼ばれた。
キュビズムとは、遠近法を用いて写実的に描かれた従来の絵とは異なり、さまざまな視点からモチーフを捉え、それぞれの要素を、単純化やデフォルメなどを加えながら再構成し、一枚の中に納めた作品のこと。だからピカソの絵は抽象的とはいえ、得体の知れないインパクトをもって、観る者にグングン迫ってくる。
柳原の描く顔
なぜこんなことを書くのかというと、柳原良平の作品にキュビズム的要素を感じたからだ。柳原のキュビズムは、人物の顔に顕著に表れている。
たとえばアンクルトリスなど、鼻筋の頂点付近にふたつの目が並んでいる。普通の顔(?)は鼻の両側に目がひとつずつ収まるので、目・鼻筋・目と並ぶ。だがアンクルトリスは目・目・鼻という並びになっている。デッサン的にはめちゃくちゃだ。
アンクルトリスでなくても、柳原が描く人物の顔は、このようなものが多い。極端な例としては、船を前にした少年(若き日の柳原自身を描いたものだったような気がする)を背後から描いた絵だ。
少年の体は画面奥に停泊する船の方向を向くから、本来なら背を向けているはずなのに、なぜか顔に目が描かれている。不思議なのは、それでも船を眺めているように見えることだ。
人物以外にも
人物だけでなく、乗り物を擬人化した絵本でも、このような手法は披露される。『のりもの いっぱい』(こぐま社刊)には、車や船、新幹線などが登場するが、真横から見ているにもかかわらず目がふたつ並んでいる。こぐま社の元編集者・関谷裕子氏がこの点に触れている。
「先生は、側面と正面を一緒にしたような絵を描くなどされますよね。頭で考えると少しヘンに感じますけれど。ヒラメやカレイみたいですよね。でも子供の本を描くときって、発想が自由になるんじゃないでしょうか」
写実画も得意
柳原が描いた船の油絵などは、逆に写実的のものが多い。だから写実的に描く技術の高さなど、とっくのとうに証明済だ。彼が残した多くのペン画や水彩画には、写実的なスケッチなども多く、船で作業している人物などは生き生きとした生命力を感じさせ、見事なデッサン力に圧倒される。
そんな高い技量を持つ柳原が、関谷氏の言うように自由な発想をもってデフォルメするから、たとえ鼻の横に目がふたつ並んでいても、後ろ姿に目があっても、不自然さを感じさせないよう描くことができるのではないかと思った。不自然でないどころか、味わいがあって温かみまで伝わってくる。
手法的に言えば、
どうして不自然に見えないのだろう?と頭を捻ったとき、ひょっとしてこの絵は、ひとつのモチーフ(顔)をさまざまな角度から見て再構築した結果なのではないか?という方向に考えが及んだ。それで、これは一種のキュビズムだと思い至った次第。
とまあ、ズブの素人がピカソの芸術について、このレベルで触れていいのか?と書いている現在もビビっているが、以前から不思議に感じていたことなので書くことを決断した次第だ。異論反論、罵倒や教育的指導などに至るまで大歓迎!
ただしピカソの絵は抽象的でも、柳原の絵は、どこまでも具体的で暖かい。そこが正反対であることだけは言っておきたい。(以下、次号)
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「船キチ」という表現は「尋常ではない船マニア」といったニュアンスを表しています。柳原良平が自著の中で、主に自身に対して頻繁に使用している表現ですが、そこに差別や侮蔑の意図はまったく感じられません。従って本コラムでは、他の言葉に置き換えず、あえて「船キチ」という単語をそのまま使用しています。
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