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【ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ】感想 クソみたいな世界でそれでも生きていく



圧倒的24年上半期ベスト!
はみ出しものの友情映画でしか得られない養分がある。

トリメチルアミン尿症で体臭が激臭。
夢に敗れ性格がねじ曲がっており、間違いなく学校一の嫌われ者のハナム教師。

ベトナム戦争で愛息子を亡くした黒人女性の調理師、メアリー。言葉数は少なくいつも不機嫌そうだが、本当は心優しく、三人の架け橋的な存在。

学業面では優秀だが、父親が統合失調症、母親は彼氏優先、友達もいない、いわゆる問題児のタリー。

この映画の素晴らしいところは、先進国が作る映画にありがちなくだらないお涙頂戴的な演出が一切省かれていることだと思う。
顔立ちも心も綺麗な素晴らしい登場人物が寿命が平均より少し短いことで大騒ぎする映画や、魅力的な男女がひっついて離れてを繰り返す恋愛映画にうんざりしている人は是非この映画を見て欲しい。

この映画に出てくる登場人物ははたから見てどうしようもなく孤独で、不幸せな要素をたくさん持ち合わせている。それに対してこの映画が出す答えは、逆境を乗り越える熱き魂でも不幸をひたすらに嘆くことでもない。

三人は自分のクソみたいな境遇をある種諦観しつつも、甘んじて受け入れはしない。持ち合わせている知識や、シニカルなユーモアでかわしてみせる。たまには非行を何食わぬ顔でやって見せたりもする。

チェリーアイスを他人の車の上でフランベしてみる一同

こういったちょっとしたシーンで「これだよこれ!!」となる。不条理を乗り越えていくかっこいい主人公からではなく、腐りながらもそれでもなんとか生きていく平凡な三人からしかもらえない活力がある。

三人は時間をかけてそれぞれの心の柔らかい部分に触れていく。
傷を舐め合うでもなく、変に共感するでもない。不器用な三人だからこその独特な距離感でお互いを見つめ、時には手を差し伸べ合う。

最初は全然魅力的に見えなかった登場人物たちが最後には愛おしくてたまらなくなっている。

世界は生まれながらの不平等や理不尽に溢れている。周りがどうしようもなく恵まれているように見えたり、自分が不甲斐なく思えたり、孤独を感じて何もかもどうでも良くなったりする瞬間は誰にでも訪れる。

でも、それでも生きていく。時には他人に手を差し伸べて、少し人の温もりを感じて、ちょっと嫌味を言ってみたりして、そんなちょっとしたことで前に進んでいける。
私はこの映画を通じて、クソみたいなこの世界でそれでも生きていこう、生きていけると信じられる気がした。


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