受け継ぐ人
初めて宇治を訪問。京阪宇治駅のプラットフォームを降り立つと川の流れが見え、遠くの山々には靄が垂れ込めており、ここは水が豊かなお茶の街なのだと感じさせられます。
駅を出て橋を渡りJR宇治駅方面に向かう道には辻利、上林春松本店、中村藤吉本店など有名どころのお茶屋さんやお茶を供するカフェなどが立ち並び、日本各地は勿論、外国からも多くの観光客が様々なお茶屋さんの袋を抱えてそぞろ歩きをしていました。
そのような中で、歴史を感じさせる木造瓦葺の家屋で、軒先に藍に染め抜いた甚の字が印象的なお茶屋さんが、地味ですがかといって目立たないというわけでもなく、通りにしっくりと組み込まれているといった感じで佇んでいました。間抜けなことに屋号を含む外観を写真に撮り忘れてしまったのですが、それが今回ご紹介したいと思った「京都宇治茶房 山本甚次郎」さんです。
奥で若い女性客が縁側に座るように腰掛で一人でお茶を飲んでいるかと思えば、二人連れの中年の女性客が若い園主からお茶に関する丁寧な説明を受けて満足そうに立ち去るところでした。
程よい落ち着きと、かといって謙虚過ぎないありのままの雰囲気が気に入り、妻と二人店に入ると、若い園主が藍の着物でにこやかに迎え入れてくれました。
妻がお茶を習っていることもあり、抹茶のことを伺うと、扱っておられる「あさひ」と「さみどり」、そしてそのブレンドの三種類について味の特徴や飲むのに適したシーンなどについて懇切に説明頂き、有難くも一種類であれば点てて頂けるとのことでした。
お言葉に甘えて、園主お気に入りの「あさひ」を頂きたいと申しますと、園主自らが店の奥に入り、妻と私の分をそれぞれ丁寧に点てられました。お忙しいのに恐縮に思っていると、外からその様子を見て数人のお客さんが新たに入って来ました。この非効率な接客が今の世の中却って魅力なのかもしれません。
中でも、アジアにルーツがあるように見えるアメリカ人客は園主が我々にお茶を点てるのを辛抱強く、いやむしろ興味深く見入った後、やっと我々から解放された園主から抹茶について早速説明を受けていました。同じように抹茶を御呼ばれするのかな、と思ったら、すぐに「あさひ」を購入。『あなたの名前が「甚次郎」なのか』、『いや店の名前は先代のもので私は「甚太郎」なのだ』といったようなたわいもない話を園主と一しきりすると満足そうに店を後にされていました。
我々夫婦も「あさひ」の、抹茶にしては苦みが少なく、爽やかでありながらふくよかな余韻の残る味わいを楽しんだ後、抹茶と碾茶を手にお暇しました。
店は更に賑わいを増していましたが、店の奥では相変わらず例の若い女性客が腰掛で寛いでいるのが印象的でした。
<基本情報>
京都宇治茶房 山本甚次郎
https://jinjiro.jp/