朝顔
転居を終えたばかりで、まだ段ボールも片付かずに家が混乱している最中にもかかわらず、妻がどうしても朝顔市に行くと言い出しました。妻の実家が埼玉で、都心へのアクセスの玄関口が上野であることもあり、何かと下町の風物には思い入れがあるようなのです。ただでさえ疲れているのだからやめた方がいいよ、との忠告も振り切り、炎天下出掛けたようで、会社から帰るとベランダには朝顔がありました。
あまり日持ちがせず、しかも、咲いたとしても昼過ぎには萎れてしまうのに、どうしてそこまでして買いに行ったのだろう、と、朝顔市の様子を嬉々として話す妻に半ば呆れ、最初は話半分にしか聞いていなかったのですが、どうやら4種類の蔓を組み合わせた鉢植えを購入したようです。茎・葉が生き生きしており、近所の花屋の軒先に置かれた500円の朝顔とは違い、見栄えも心なしか粋な気がしてきました。値段も数倍するのですが・・・。
当然ながら、最初の頃は、濃い紫、紺、薄い赤の花が咲き揃って賑やかだったのですが、数日経つと咲く花が4つになり、3つになり、そして2週間後、ついに一つの花も咲かない日が来てしまいました。どうやら、義理の母によると、あまりに暑い日が継続すると朝顔も花を付けにくくなるそうで、温暖化の影響はこんなところにも出てきてしまっているようです。しかしながら、蔓や葉は相変わらず元気であるため、妻は甲斐甲斐しく毎日水やりをしておりました。
朝顔にあまり興味のなかった私もその頃には朝起きるとベランダを覗くのが習慣になっており、咲かない朝顔が愛おしく、命ある限り水やりをして、健やかな余生を送って欲しいと温かく見守っていたのです。すると妻が、「あっ、蕾が出てきた。明日咲くかも?」というではありませんか。咲かなくなって3日経ち、もう終わりなのではないかと思っていただけに半信半疑だったのですが、翌朝、ベランダに出てみると赤み掛かった白い可憐な花が1つ、太陽に向かって涼しげに咲いておりました。何か、とても小さな驚きと、じんわりとした安堵を覚え、自然の営みに感動しました。
それからというもの、赤み掛かった白い花が再び1つ2つと咲くようになったのですが、驚いたことに最近は紺色、そして紫の花も盛り返して来ています。今日も夕方ベランダを見ると、蕾が2、3ついているので、明日の朝も何色かはわからないのですがまた花を見ることができそうです。正直、ここまで花が継続して咲き、そして自分がこんなに朝顔を楽しみにすることになるとは思ってもみませんでした。引っ越し後に疲れを押して朝顔市に行ってくれた妻、うだるような暑さにもめげず、黙々と花を咲かせてくれる朝顔に感謝です。
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