福島第一原発事故は本当にひどい事故だったのか 2大原発事故を比較 チェルノブイリと福島第一
福島第一原発の事故は酷い事故だったと言われています。
一方、世界史上最悪の原発事故といえば、間違いなくチェルノブイリ原発事故です。では福島第一原発事故と比較するとどうなのかをいくつかの項目で整理してみました。
結論をいうと、事故の酷さの次元がぜんぜん違うと考えています。それぞれ見ていきましょう。
◇日時
<チェルノブイリ>1986/4/26
<福島第一>2011/3/11
◇国際原子力事象評価尺度(INES)
<チェルノブイリ>レベル7(深刻な事故)
<福島第一>レベル7(深刻な事故)
国際原子力事象評価尺度では同じレベル7だったが、外部への放射性物質の放出の規模は、汚染地域の面積からしておよそチェルノブイリの約10分の1だった。ただ、厳密には放射性物質は核種により、影響は様々であるから一概に比較できない。
参考まで、INES(国際原子力・放射線事象評価尺度)についてhttps://www.env.go.jp/chemi/rhm/kisoshiryo/attach/201510mat1-02-08.pdf
◇事故原因、経緯
<チェルノブイリ>人為的ミス・欠陥に起因。
<福島第一>自然災害が原因。
・事故に至った経緯概略
<チェルノブイリ>
実験中に事故が起こった。 計画とは異なる状況に陥りつつも危険な低出力状態で実験を強行。低出力運転の状態で出力不安定になるという原子炉の特性をもっていた。
実験を遂行するため炉心への冷却水ストップ、安全装置を遮断するなど危険な運転をした。
さらに設計の欠陥があったことで致命的な状況になる。緊急停止ボタンを押すことにより制御棒が挿入されるが、出力減少せず、逆に炉心出力急上昇した。
燃料の温度急上昇により、水蒸気爆発してついに原子炉が破壊される。減速材の黒鉛も炎上火災。大量の放射性物質が拡散される。
<福島第一>
地震発生、緊急スクラムにて原子炉は停止した。つまり制御棒はただちに完全に挿入された。
このとき地震により発電所外部からの電源が停電していた。非常用電源に自動的に切り替わる。
その後津波により地下にあった非常用発電機や電源盤が浸水し、非常用電源喪失。
炉心冷却不能に。原子炉は停止しても崩壊熱という核燃料から熱が出るので冷却し続ける必要があるがそれができない。
メルトダウンに至る。
温度上昇により燃料被覆管の金属と水の反応で水素発生。様々な要因によりベント(危険な水素を外部に逃がす)できずに水素爆発して建屋が破壊される(1,2,4号機)。建屋が破壊したが、原子炉、格納容器はほとんど破壊されていない。
参考:
https://fukushima-updates.reconstruction.go.jp/faq/fk_200.html
◇オペレーションについて
<チェルノブイリ>
運転規則に違反していた。危険な状態で試験を強行した。
設計の重大欠陥があったにせよ、運転規則を守っていたら事故は起こらなかったと考えられる。
<福島第一>
オペレーションの大きなミスはしていない。違反もしていない。
◇技術的な違い
・形式
<チェルノブイリ>黒鉛減速 沸騰軽水 圧力管型原子炉(RBMK)・・・旧ソ連独自開発の方式
減速材:黒鉛
冷却材:水
ちなみにこの旧ソ連式のRBMK方式は現在は稼動していない。
燃料棒ごとに直径10cmほどの圧力管が何本もあるタイプ。
圧力管が別なことにより運転中にも燃料交換できるメリットがあった。これは、核兵器に転用するためのプルトニウム取り出しに有利な構造であった。
<福島第一>沸騰水型軽水炉(BWR)・・・ 米ゼネラルエレクトリック(GE) が基本設計
減速材:水
冷却材:水
原子炉圧力容器は燃料集合体がまとまって配置されている。
原子炉を停止しないと燃料交換できない構造。
・格納容器の有無
<チェルノブイリ>格納容器なし
<福島第一>格納容器あり
格納容器は万一の事故が起きた際に放射性物質を閉じ込めるために原子炉や周辺の重要機器を覆う容器。過酷事故のときにこの違いは大きい。
・核反応の特性
<チェルノブイリ>
核反応に正のフィードバックの特性がある(危険)。事故後に正のフィードバックが小さくする改善がとられた。
<福島第一>核反応に負のフィードバックの特性がある(安全)。
・安全装置について
<チェルノブイリ>安全装置が容易に解除できてしまうのも問題だった。
<福島第一>安全装置は容易に解除できない。
・設計について
<チェルノブイリ>
重大な設計上の欠陥が報告されていたが、現場の運転員には隠蔽されたまま運転されていた。極限状態では、緊急停止ボタンが、逆効果となり反応が加速、暴走してしまうというもの。
<福島第一>
基本的に、設計上の欠陥はない。
ただ、地震・津波対策として以下のように不十分だった点がある。
- 堤防が津波を防ぐのに十分な高さではなかった。
- 強固な水密扉にするなど浸水への対策が不十分だった。
- 非常用発電機と配電盤等がすべて地下にあった。
また、欠陥はないとはいえ、事故があったBWR(沸騰水型)方式よりもPWR(加圧水型)方式のほうがより安全という説もある。炉心冷却する水が密閉され、蒸発しないことなどから。
◇犠牲者数
<チェルノブイリ>
死者は旧ソ連発表31人(主に急性放射線障害によるもの)
IAEA報告では約4000人、ある説では約9万人に及ぶ。
<福島第一>
放射線による死者は0人(?*)
(*Wikipediaによると1人。しかし出典が英文記事で、日本語記事見当たらず、詳細不明。)不明な点はあるが放射線による死者はゼロとみられる。
https://synodos.jp/fukushima-report/21558/
また、事故としてカウントされていないが、津波被害で発電所作業員が2名亡くなっている。
https://www.nikkei.com/article/DGXNASDG02013_S1A800C1CC0000/
私が思うに、放射線による犠牲者が福島第一ではなかったというのが不幸中の幸いで、この点がチェルノブイリとの大きな違い。
◇社会情勢、環境
<チェルノブイリ>
・社会主義 & 権威主義国家といえるソ連
・国営企業
・冷戦下
民間利用と軍事利用の区別があまりなかったと考えられる。原発は発電もできる核兵器用の材料を生産する施設ともみなせるかもしれない。
軍事機密ということで情報を公開する必要もなかった。
<福島第一>
・資本主義 & 民主主義国家
・民間企業 ※国の影響も大きいが
・平時
基本的に情報が逐次公開された。
◇住民への情報伝達、避難、事故対応
<チェルノブイリ>
事故当日未明に起きた事故は、事故直後は公開されず、政府や上層部に過少報告される。(隠蔽体質)
事故当日午後、政府官僚と科学者が現地入り。
住民はほぼ丸一日通常の生活をする。(屋内退避の指示もなし)
事故翌日、1000台以上のバスがチャーターされ、正午すぎから近隣住民全員がバスで非難する。
最初外国へは事故は発表しなかった。スウェーデンでの放射線量の増加が最初に検知され、その後ソ連政府が認めたことにより事故が発覚した。
<福島第一>
事故の状況はリアルタイムで報道。海外でも報道される。
ただちに屋内退避の指示→その後避難指示。
一部、スピーディーのデータを公表しなかったという批判はある。
対応がよくなかったという政権批判はある。
まとめ
チェルノブイリ原発事故は間違いなく世界で史上最悪の事故です。福島第一原発事故は大したことないとはいいませんが、事故の深刻さに大きな違いがあるといえます。
ひとつあげると、福島第一原発事故では、事故による死者がいないとこが不幸中の幸いではないでしょうか。
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