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#02.荒れ地なう。
2018年4月21日
荒れ地を畑にする作業に取り掛かる前に、どうしてもやらねばならないことがある。
それはSNS用の記録写真を撮ること。
家庭菜園の醍醐味は汗と苦労と収穫の喜び。それに上手く行けば美味な野菜と、作物の交換に伴う喜びまで付いて来る。
…とはいえ、それらはまだ先の話。畑とは呼べない荒れ地を開墾し、それらしいカタチにするには、除草や耕運、整地に異物撤去など、地味で単純な“作業”が予想できた。
風に揺れる新緑を相手に水をまく清々しい妄想を叶えるためには、土や石や草を相手にしたあまりにも長い時間を覚悟しなければならなかった。その間の僅かな楽しみをSNSに求めたとしても不思議は無いと思う。
朝の8時。件の荒れ地に到着した私は、スマホで写真を撮り始めた。きっとステキな畑になるであろうその場所は、今は一面草に覆われている。
SNSの画面に完成写真を上げた時、作業前と作業後の差は大きいほど良い。今はいっそ、荒れ果てていれば荒れ果てているほど良いハズだ。
こうして、全くSNS映えしない草ボーボーの写真を、何故だか希望を胸に揚々と撮っている男が誕生してしまったのだった。
外観は草ボーボー。ご近所さんの家々に囲まれて、先輩にアドバイスを貰いたい放題の好立地だ。陽もよく当たるし、すぐ横が道なので、車を横付けできるのも利点だと思う。
土地の中に小さな川が流れている。水道が整備されるより前は、この地区の水源として利用され、毎日お母さんたちの井戸端会議が開かれた場所らしい。
井戸まである。
フタをズラすとすぐそこに水面が見えた。今は使われていないので飲料水しては使えなくても、農業用水としては十分に使える。まして家庭菜園レベルなら、まず水に困ることはなさそうだ。
小川の主水源。草とドロを少し退けると、水が渾々と湧き出ている。
菜園をやるのに必要なものが豊富に揃っているように思えた。何故この土地が手付かずで放置されているのだろう?
川の向こうが農地になる予定の場所。ハンパな場所に木が生えてしまっている。
この木が、この土地を農地として使いづらくしているのだろうか。機械的な生産を行う農地としては邪魔になると思うが、何せこちらは家庭菜園。扱いはどうとでもなる。
…しかも見ればグミの木だ。放っておいても実が付くかも知れない。農園のシンボル、かつ作物として、このまま残すことにした。ちなみにグミの実を食べたことはほとんどない。
農地の面積を測ると、20m×15mの300㎡ほどだった。家庭菜園用にレンタルされる市民農園の規模と比べると、おそらく圧倒的な広さだろう。
私は農家でも、農家のセガレでもない。家の維持のためにと大家さんから草刈機を頂いてはいたが、農業用の機械は何一つ持っていない。この300㎡は、スコップとクワを使った人力で畑として再生される予定だ。
…とはいえ、前途多難さを思って絶望することはない。300㎡すべてを同時に稼動するのはまだかなり先の話だ。当面は植える作物に必要な土地の草をとり、耕し、少しずつ畑を広げていけばいい。なんせ家庭菜園なんだから。焦ることはない。
写真を撮り終え、朝の8時30分。この日はよく晴れていて風もなく、絶好の農作業日和だった。5月初頭の田植えを前に、近所の農家さんたちも動き始めた。午前中に草刈りでも済ませてしまおうかと思った矢先、ご近所さんが話しかけてきてくれた。
近所に住む農家のおっちゃんだった。酒好きで豪快に笑うこのおっちゃんとの会話が、家庭菜園初日のスケジュールを大きく変える事になる。