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ラオウと黒王号のごとき

内枠を利してユニコーンライオンが逃げ、前半1000mが60秒ジャスト、後半が58秒5という、中緩みのスローペースに流れた。前に行った馬にとって極めて有利であり、スタートしてから第1コーナーまでのポジション取りが着順を大きく左右した。勝ち馬はたしかに強かったが、レース自体はG1としては凡庸だったと言っても過言ではない。せっかく高速馬場で行われない中距離G1レースなのだから、もっと激しい宝塚記念が見たかった。

勝ったクロノジェネシスは好スタートを切り、レイパパレのすぐ後ろに付けられた時点で勝ちがほぼ確定した。そのポジションを狙っていたというよりも、普通にスタートして走らせたら、スムーズに先行でき、なおかつ目の前にマークすべき馬がいるという最高の形になったということ。その普通こそが、クロノジェネシスの強さであり、今の充実ぶりが伝わってくる内容であった。ゴール前は余力たっぷりに2馬身半離してフィニッシュし、このメンバーでは一枚も二枚も実力が違うことを示してみせた。昨年は古馬になって力をつけたが、今年は海外遠征を経て、どっしりとして精神的にも大きく成長し、もう注文をつけるところがない名馬として完成された。凱旋門賞が楽しみである。

ルメール騎手も普通の騎乗をして、普通にクロノジェネシスを勝たせてみせた。理想のポジションを取れたことで、最後の直線に向くまで脚をじっくり溜める余裕があり、ムチを一発二発、あくまでも合図として使っただけ。つけ医いるこんなに楽にG1レースを勝たせてもらえることなんて、ルメール騎手であってもそれほど多くない。勝利ジョッキーインタビューでは、静養中の北村友一騎手を気遣う優しささえ見せていた。今日本で一番強いであろうクロノジェネシスと日本のトップジョッキーとのコンビの姿を「週刊Gallop」の表紙で見て、ラ王と黒王号を思い浮かべたのは私だけではなかったはず。

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2着に粘り込んだユニコーンライオンは、スローペースに恵まれたものの、自分でレースの主導権を握りに行ったからこそ。大きな体を持て余していたが、ここに来て持てる力を出し切れるようになってきている。それは辛抱強く使い続けた矢作調教師や根気強く育てたシュウジデイファームの仕事が実ったということであり、また素直に騎乗して力を引き出した若手ジョッキーたちの腕でもある。ユニコーンライオンは2億円で募集された馬だが、ようやく獲得賞総額が募集金額に近づきつつある。簡単ではない道のりだが、応援しているクラブのひとつだけに、これからも頑張ってもらいたい。

レイパパレは2番手に控えてしまったことで、終始、行きたがってしまい、それを抑えるだけで道中は終わってしまっていた。直線に向く頃には手応えは残っておらず、最終的には逃げ馬さえ捕えることができなかった。調子が良かっただけに正攻法の競馬をしたかったのも分かるし、今後のことを考えると番手で抑える型に戻したかったのも分かる。しかし、今回のレースに限って言えば、実に中途半端というか、レイパパレの良さを殺してしまった不完全燃焼の走りであったことは否めない。もっとレイパパレのスピードを生かすことを優先していたら、クロノジェネシスには勝てなかっただろうが、連対を外すことはなかったはず。川田将雅騎手にしては珍しく消極的な騎乗であった。

カレンブーケドールは、スローペースをあれだけ外を回してしまっては苦しい。スタミナを生かすために早めに抜け出したかったのかもしれないが、クロノジェネシスの後ろをついて回ってくるべきであった。キセキは福永祐一騎手が馬の気持ちに沿った騎乗をして、最後まで良く粘っている。


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