【縄文杉トレッキング】ひとりで屋久島に行ってきた。 その3
縄文杉トレッキングへ
2日目。旅の目的とも言える縄文杉トレッキングに行く日。朝3時にセットしていたアラームが鳴る前に目が覚めた。昨夜は9時頃には寝ていたから、睡眠時間も充分だ。
昨日準備したリュックをもう一度開き、中身を確かめる。GORE-TEXのジャケット(雨具)、タオル、UNIQLOのライトダウン(防寒着)、お菓子、ジップロック、財布、などなど。
自分は肌が弱く日光が苦手なので、日焼け止めを全身に塗った上でUNIQLOのドライTシャツを着、さらにUVカットのラッシュガード(長袖)を重ねる。
余談ながら、登山・トレッキングにおいて綿製品はご法度である。綿は汗や水で濡れた時に乾かないからだ。体温調節が重要なアウトドアで、服が乾かないというのは致命的だ。そこでナイロンやポリエステルなど、乾きやすい化繊の服を着る。
(なんて偉そうに書いているが、mont-bellの店員さんにしつこく教えてもらわなかったら、多分FACTのバンドTシャツとかで登ってただろうな。皆さんも覚えておきましょう)
ズボンはmont-bellで買ったマウンテンパンツ。予算の関係でこちらはGORE-TEXでない普通のナイロン製だが、多少の雨なら弾いてくれる撥水効果がある。靴はTHE NORTH FACEの黒いトレッキングシューズ。mont-bellではもう少しガチの登山靴を勧められたが、どうしてもあの野暮ったい感じが気に入らず、デザインだけでこっちを選んだ。まあでも、カッコいいってのは大事なことだよね。
「よし、オッケー」
準備万端、ガイドさんが迎えに来てくれる時間までソワソワしながら待ち、外に出た。
メンバーをピックアップ
早朝、というよりまだ夜中の屋久島。前日に頼んでおいた2食分(朝食と昼食)の登山弁当を受け取り、真っ暗な中ベンチに座っていると、やがてワンボックスカーに乗ったガイドさんが現れた。
荷物を載せ、後部座席の一つに座ると、車は発進した。ガイドを務めてくれるのはSさんという60代くらいのおっちゃんで、ベテランの風格とお茶目な明るさが同居しているような人。「あと3人ピックアップするからね〜」と鼻歌交じりに運転し、いろいろな民宿を回って一人、また一人とメンバーを乗せていく。
自分を含めて4人がこのトレッキングに参加するのだというのは聞いていた。自分ともう一人が男性、あとの二人は女性だった。皆20〜30代くらいで、全員が一人旅だという。ガイドさんとこの4人で計5人。これが今日のパーティになる。
30分くらい(だったかな)で、駐車場のようなところに到着した。どうやらここからバスでさらに30分ほど行った先に登山口があるらしい。聞けば11月〜3月の期間以外は、この先への自家用車の乗り入れが禁止されているんだそうだ。つまりこの時期、登山口に行くには必然的にバスに乗ることになる。
「バスが来るまでに、朝ごはん食べちゃおっか」
Sさんが言い、自分たちはベンチに座って弁当を広げた。
あら美味しそう。
おにぎり2つとおかずが数種。そんなに腹は減ってなかったし、あまりガッツリ食べて途中でトイレに行きたくなるのもな、と半分ほど食べてリュックに仕舞った(めっちゃ美味しかった)。
この時間に初めて、一緒に行くメンバーとちらほら話をした。どこから来たのかとか、なんで屋久島なのかとか。自分以外の3人は、転職前の有給消化期間を利用して来ているらしい。
会ったばかりだし、こんな早朝だし、飯を食いながらだし、それほど盛り上がることもなく時間は過ぎ、やがてバスがやってきた。
荒川登山口へ
すごい山道をバスに揺られること30分。トレッキングスタート地点である荒川登山口に到着した。ここは既に屋久島国立公園の中だ。
今回のルート、工程の半分以上が、写真右に見えるトロッコの線路に沿っている。このトロッコ線路は(旅後半でも大いに触れる)林業用のもので、切り出した木材を運び出すのに使われていたものだ。当然、土地を平坦にした上に敷かれているから、歩きやすい。
民宿を出るときには真っ暗だった空も、ここに来たときにはすっかり明るくなっていた。この時点で6時過ぎ。
トレッキングスタート
ということで縄文杉トレッキングがいよいよスタート。ここからは写真で雰囲気を伝えたい。ちなみにこの青いリュックを背負った人がガイドのSさん。
トロッコ道が終わり、山登りへ
7〜8キロくらい行くとトロッコ道が終わり、ここからは山登りの雰囲気になる。とはいえそんなにハードな道のりではない。女性や子供でも問題なく登れると思う。
1日目にレプリカを見たウィルソン株。
あるポイントから上を向くとハート型に見えるってことで、女性に大人気らしい。
トレッキング終了
ということで、ダダダと写真を載せてみた。実は縄文杉の写真も含まれてたけど、どれかわかったかな。
ことさら縄文杉をクローズアップしなかったのは、縄文杉それ自体というより、この工程全体が一つの体験、という感覚を得ているから。縄文杉、確かにすごかったけど、そこに至るまでの風景、空気、におい、手触り、そういうものすべてが印象的だった。
縄文杉をゴールにして折り返してくるわけだが、その帰り道、雨が降り出した。密かに期待していた雨だ。GORE-TEXを羽織り、雨に濡れることで深みを増した緑を、目に焼き付けるように見つめる。
雨の森は、最高だ。
何度目かの休憩後、Sさんが「誰か先頭歩く?」と言い出した。思わず「俺、行きます」と言った。前方に誰もいない景色を、見たかった。
この後、雨脚はどんどん強くなり、GORE-TEXジャケットのフードを被って歩いた。
なぜモノクロ。そしてなぜドヤ顔。
荒川登山口に戻る頃には雨はいよいよ本降りで、リュックはこんな状態。いつの間にか葉っぱが挟まっていた。
結果はこんな感じ。6時過ぎに出て戻ってきたのが15時、8時間40分の工程。距離は約24km。一緒にいったメンバーの中には眠気と疲労でフラフラになっている人もいたが、自分は驚くほど元気。今からもう一回同じ工程を歩けるんじゃないかって思えるくらいだったから、多分頭がちょっとオカしくなってたんだろうな。
あとはバスに乗って駐車場まで戻り、ガイドさんに民宿まで送ってもらって終了でした。
あっさりした別れに戸惑う
余談ながら、この丸一日のトレッキングを共にしたメンバーたちとは、ついに名前すら聞かないままに別れた。当然、電話番号やFacebookも知らない。
それなりに長い時間を共に過ごし、並んで弁当を食い、お菓子を交換し、時には笑い合い、助け合い、そして縄文杉を一緒に見た。そんなメンバーと、名前も聞かずに別れたのだ。
もう二度と会うことはないのかもしれない。いや、その可能性の方が高いだろう。仮に会えたとしても、街なかですれ違って、それがあの時のメンバーだと気付ける自信はない。
恐らく今まで何百人、何千人をガイドし、こうして民宿に送り届けてきたSさんの挨拶は「じゃ〜ね〜」とあくまで軽い。それにつられてこちらも会釈をするくらいに留まり、ドアは閉められ、車は発進し、こちらを見送るメンバーの姿は遠ざかっていく。
その顔が見えなくなる直前、もうこれで会うことはないのだという事実が今更のように思い出され、これでいいのだろうか、何も言わずに別れてしまっていいのだろうかという、罪悪感に似た戸惑いが浮かぶのだ。
だが、それを知覚したとき、既にメンバーの姿はない。
僕らはもう二度と、会うことはない。
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