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【小説】 愛のギロチン 17

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ギロチンと聞いて思い浮かぶのは当然、あれだ。フランス革命とかそういう時代に、悪いことをした王様の首をはねた、あれ。

だからこそ俺は、大貫が自分の職業を「ギロチンの設計士」だと言ったとき、笑えない冗談だと思ったのだ。

ガンガンに権力者の首が撥ねられていた時代には、あるいはそういう職業だってあったのかもしれない。恐ろしい用途から考えればあまりにあっさりし過ぎていると感じるあのデザイン、ただの木枠に巨大刃がつけられただけのあのデザインだって、どこかの誰かが設計したものには違いない。

だが、そんな時代は今は昔。どんな悪いことをした政治家だって斬首されることなどないこのご時世に、「ギロチン設計士」などという職業が成り立つはずもない。

仮にそういう事業を営む人間が今もいたとして、そして仮に俺が警察官だったとしたならば、「ギロチン作ってくださーい」とやってきた客は全員職務質問だ。何しろギロチンの用途は、人間の首を撥ねること、ただそれだけなのだ。

「だから、センス悪いですよその冗談。なんでこのご時世に、人の首を跳ねる道具を設計しなきゃならないんですか」

だが、結果的にセンスが悪かったのは俺だった。

バカにした表情でそう言う俺を大貫は驚いた顔で見、言った。

「バカ、工業用に決まってんだろうが」

「……え?」

「工業用ギロチンってのがあるんだよ。それは人の首じゃなく、金属とかプラスチックとかを切るんだよ」

居酒屋で大貫から”仕事”を請け負った次の日、俺は会社に行って事情を説明した。

新規案件を担当したいと言うと、上司は怪訝そうにしていたが、実は知り合いから頼まれてしまったのだと言うと、「ああ、なるほどね」とあっさり納得した。

求人事業というのは、採用を行う会社すべてがクライアントになり得る。言ってしまえば、「世の中のすべての会社」が営業対象なのだ。そういう理由もあって、「知り合いからの依頼」は決して珍しいことではない。

むしろ営業の方が、「今週数字が厳しいから発注してよ」と人事をやっている友人や親戚などに頼むケースもある。いや、実際はそっちのケースの方が多いだろう。

いずれにせよ上司にとって、あるいはウチの会社にとって、退職が決まった出がらしのような社員が新規案件を担当するのを阻む理由はない。有給を消化するだけで1円も生まないお荷物が、なぜか勝手にやる気になって売上を取ってくるというのだから、好きなようにさせればいい。

「まあ、長引くようなら誰かに引き継いでくれりゃいいから」

上司はそう言い、俺の肩をポンポンと叩くと、どこかに行った。

なんのポンポンだ。「サンキュー」なのか「変なやつだな」なのか。まあなんでもいい。とにかくこれで、俺は大貫の会社の担当になった。

自分から上司に頼んだくせに、それが現実になってみると妙な心地がした。あの夜、大貫に会っていなければ、存在しなかった展開。まだ知り合って間もないのに、走馬灯のように大貫と過ごした時間が頭に浮かんだ。

そして俺は今更のように気付いたのだった。

そうか、これが俺の、最後の仕事になるんだな。

つづく

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