【広島地区】若者がチャレンジした地域での学び~SDGユース・ラボ報告
2022年度から広島地区と富士山地区で試行が始まった「ローカルSDGs人材育成プロジェクト」。
広島地区では、2023年10月から全4回・のべ7日間にわたって「SDGsユース・ラボ」と称して人材育成プログラムが行われた。最終回である第4回が、2024年3月2日(土)~3日(日)に行われ、8名が参加した。
最終回の概要を報告する。
【SDGsユース・ラボとは】
ろうきん森の学校では、“学校”というキーワードから人材育成に焦点を当て、地域の若者と共に地域課題の解決に取組み、リーダーシップの取れる人材を育成する『ローカルSDGs人材育成』を、2022年度から試行している。(昨年の様子はこちら)
今回広島地区で実施した「SDGsユース・ラボ」は、主に20代の若者を対象とした講座である。SDGsやローカルSDGsを学びながら、広島地区の拠点・北広島町でひろしま自然学校の取り組みをOJTを通して知り、それをSDGs/ローカルSDGsの視点でまとめて、新たな事業提案をするものである。特徴としては、地域課題を知る関係者にインタビューを行って企画提案をまとめること、そして当事者に発表を聞いてもらい、フィードバックを受けるという点がある。
今回設定されたテーマは3つ。
1)教育のオルタナティブ
2)里山保全&関係人口の創出
3)住民のエンパワメント
いずれもひろしま自然学校が取り組んでいるテーマであり、今回若者の視点でこれらのテーマに新しい提案が加わることを期待しての設定となった。
それぞれのテーマごと2~4名でチームを作り、地域課題を知る関係者にインタビューを行い、それを踏まえた企画提案を行った。
1)教育のオルタナティブ
教育を取り巻く問題は様々だが、このチームは主に不登校に焦点を当て、ひろしま自然学校で取り組んでいるフリースクール事業に対する提案を行った。現状分析とインタビューから見えた課題では、
・子どもたちに権限と選択肢が必要
・発達の凸凹に対応した教育ができていない
などがあり、SDGs達成の2030年に目指すべき姿を「自分らしい学びができる場が増えること。それが社会に認められること」とした。
チームからは以下の6点が提案された。
・フリースクール同士のつながりを作る:情報共有と連携をすることで発言に力、提言の声が大きくなる。
・パンフレットをつくる:特色を伝える
・保護者との連絡帳をつくる:子どもの関り方や1日の様子を伝える(保護者の参画につながる)
・休日フリースクールを開設する:関係人口を増やす、平日に来れない大人も関わってもらえるようにする
・職場体験、見学会をする:地域との関わりを持ち、存在を認識してもらう
・校内にFS(フリースクール)のような居場所を作る
2)里山保全&関係人口の創出
2つ目のチームは、里山保全活動をしながらどのように関係人口を創出するかをテーマに、インタビューと提案を行った。里山保全活動の課題の1つに、間伐材に付加価値がつけられず切り捨てられて放置されていることがある。木材に付加価値をつけるため「デジタル・ファブリケーション」と呼ばれる方法で、新たなモノづくりに取り組みながら、森に入るきっかけをつくる提案を行った。
チームからの提案は、鳥の巣箱やスポーツ用具、楽器などを作ることを通して、実際に森に入るきっかけとなり、北広島町に関わる関係人口を増やしてはどうかというものであった。
3)住民のエンパワメント
3つ目のチームが取り組んだテーマである「住民のエンパワメント」とは、住民が自己決定能力自己効力感を高めていくことを指している。北広島町に限らず、日本の中山間地では少子高齢化により「人・土地・むら=コミュニティ」が急速に空洞化している。このことが、住民の誇りや自信を失う「心の過疎」とも言える状況を引き起こしている。
この問題を解決すべく、地域のキーパーソンにインタビューを行ったところ、それぞれが自分にとっての「楽しい」を見つけて取り組んでいることが分かった。ただし、個々によって「楽しい」ポイントは異なるため、それぞれの楽しいを認め合える雰囲気が大切だという。
チームからの提案は、住民が地元の価値を知り、再認識する共通認識を持つために「とよひら白書」を作成するというものだった。これは従来の郷土史資料とは異なり、より多くの住民が作成に関わり、作成後も活用・更新を積極的に行うという。キーワードは「共同より協働」で、異なる立場の人が利害を超えて協力しあうことである。
3チームからの発表を受けて、聞いていた地元関係者と森の学校関係者、そして受講生自らもフィードバックシートに「ここが良かった」「ここにもう少しプラスを」という2つの視点でコメントを書いて各チームに渡した。
ふりかえりと気づきの共有
昼食後、各チームでフィードバックシートを読み合わせた後、ふりかえりを行った。ファシリテーターの志賀さん(ひろしま自然学校理事)進行の下、A4用紙に質問の答えを各自キーワードで書き、互いに発表・共有する形で行った。
Q1.あなた自身の一番の学びは何でしたか?
・「〇〇×〇〇」:かけ合わせて一緒に考える(多角的に、立体的に見えた)こと。
・「多様な考え方を受け入れる」:自分と違うベクトルが飛んでくる。受け入れることを学んだ。
・「協働」:自分一人では思いもつかないこと、一人ではしんどい。皆でやることのエネルギーを感じた。
・「SDGsを達成する人づくりのプロセス」
・「大変さ」:やりはじめなければ深刻になっていくもの。大変だが得られるものが大きい。
・「一つの考えにとらわれない」:時には放っておく(議論をあるがままに流しておく)ことも必要。いろんな意見が見える、方向性が見えてくる。
・「多様な人とのつながり」:立場が違う人の声がつながることで解決につながる。
・「できる」:自分の周り(若い世代の人たち)で感じる無力感→現実性のある提案をすることを学び、難しい課題にも近づけていけることを実感した。
Q2.SDGsを結局あなたの言葉で言い換えると?
・みんなが向かう「方向」をそろえるための、北極星のようなもの。
・「究極の民主主義」:SDGsが実現した社会ってそういうことかなと。
・「グローカル」:地球規模なものだけど、達成のためには足元の小さい所から。
・「ハイブリッド」:未来の自分たちのために、過去からのものの中で新しいものも組み合わせて。
・「SDGsの輪」:全てのものが持続的に循環しているというイメージ。
・「エンパワメント」:一人ひとりの幸せを認められる社会づくり。
・「考えて行動」:みんなが考えて行動すれば達成できるのでは。
・「ゴール」:目指すために何をするか。達成されている状態はどうなのか。
Q3.今回の学びを通して、あなた自身がSDGs的な人材になっていくために一つ課題を挙げるとしたら?
・「高貴さは義務を伴う」:お金持ち、地位を持っている人ほど他人のために動く。
→自分の持っている力をみんなのために使おうと思うことが大事
・「遠くを見る」: 就活では目先しか見えなくなる。「今が楽しければいい」ではなく、先も見えるようになること。
・「地元の人とのつながり」:自分の地元が「自分事」として考えられそう。行動を起こせそう。
・「他分野に触れる」:SDGsはいろんな分野の絡むこと。いろんな人、分野に関わることで見えてくることがある。
・「甘さ」:甘える事、甘やかすこと、責任。自分にも厳しめに、本気で取り組んでいかなければならないかなと。
・「自分から」:変えていく、つながっていく。何をするにしても「自分から」という意識が必要かなと。
・「外への発信」:今回のことや、その場で起こった素晴らしいこと、大切なことを外の人、社会に伝えられるようになれるとよい。
・「聞く」:私の知らない世界を知ることにつながる。
志賀さんからのまとめの話
最後に志賀さんからまとめの話をしていただいた。
人材育成について、昭和と令和の比較で以下のような違いがあるとのこと。
昭和 画一性(均質性が求められる)、ダメ出し(枠からはみ出るとダメ)
令和 多様性(それぞれの個性を認め合う)、ポジ出し(はみ出しているところをポジティブに捉える)
そして、失われた30年と言われる時代に生まれ育ってきた若者に対して、
『暗くなるのではなく、楽しく、夢を持ってチャレンジしていくことが大事。真面目に話することが「楽しい」と思えるように』とエールを送った。
全4回、のべ7日間に亘った今年度の「SDGsユース・ラボ」。
広島地区でのろうきん森の学校の20年間に亘る活動と、志賀さんの豊富なファシリテーション経験により、充実した内容となったのは間違いない。
ろうきん森の学校第2期の最終年度となる2024年度も、引き続きこの人材育成プロジェクトに注目していきたい。
報告者:大武圭介(ろうきん森の学校全国事務局)