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最近気になっているアンティーク・レース その2
私は東京と大阪で活動している、アンティークレースを研究する研究会『Accademia dei Merletti』を主宰し、「アンティークレース」についての考察や周知を行なっています。
J.G.Camerino Collection
ー 刺繍とニードルレースの競演
16世紀のような古いレースに興味をもち、そのような古典的なレースに回帰した私は最近この時代のレースの蒐集に注力しています。
そして、最近入手したのがこちらのレース。
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一部に黄土色の色糸で製作されたプント・イン・アーリアの鋸歯状の縁取り( 16世紀末 - 17世紀初頭 )
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![](https://assets.st-note.com/img/1681794790341-gyNhdbt29S.png?width=1200)
16世紀から17世紀にかけては刺繍などの装飾にカットワークやレティチェロ、プント・イン・アーリアなどの複数の技法を混成した作品が好まれて製作されました。
そのような作品は単一色で作られることが多いのですが、このレースでは珍しく黄土色の色糸が使われて配色となっています。
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競売に出品されたことがわかります
1869年に生まれたアントワーヌ・カルリエ・ド・ランシール A. Carlier de Lantsheere によって1922年に上梓された『 Trésor de l'Art Dentellier 』(レース芸術の宝庫)に図版5の番号1として掲載されたレースに同様のデザインが見られます。
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アントワーヌ・カルリエ・ド・ランシール著『 Trésor de l'Art Dentellier 』より
ー あるパリのレース商
私が今回入手したレースは旧カメリーノ・コレクションとのことでした。カルリエ・ド・ランシールの著書に参考資料として掲載されたものも解説にCollection de M. Camerino, à Paris (パリのカメリーノ氏の所蔵品)と記述されています。
このカメリーノ氏という人物はイタリア人のレース商で、パリのオペラ大通り32番地に店舗を構えていました。。
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彼はヴェネツィアからレースの商いのためにフランスに移り住み、故郷との繋がりでヴェネツィアを代表するジェスラム工房やブラーノ・レース学校の作品をパリで販売していました。
またレースのほかイタリア産のベルベット、ブロケードやダマスク織などの染織品を販売する傍で、アンティーク・レースの蒐集にも力を注ぎました。
カメリーノ氏は蒐集したアンティーク・レースを自ら経営する店舗内で展示公開し、その素晴らしさを顧客たちに周知する活動もしていたそうです。
そして20世紀の初頭には『 An Old Lace Collection 』と題するカタログを自費で出版しています。このカタログには「このコレクションは、パリのオペラ大通り32番地のG. カメリーノ、ジェスラムとブラーノのヴェネツィア・レース販売店の常設レース展で毎日見学することができます。」と注記されています。
クーパー・ヒューイット・スミソニアン国立デザイン博物館
ー Richard Cranch Greenleaf collection
カメリーノ・コレクションのレースは大きな作品から裁断され断片になったものの一部で、カメリーノ自身も2つの断片を所有していました。
これらの断片のなかにはアメリカのクーパー・ヒューイット・スミソニアン国立デザイン博物館に所蔵された作品も含まれています。
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所蔵品番号 1962-50-189
クーパー・ヒューイット博物館の作品は20世紀アメリカを代表する偉大な染織品蒐集家のリチャード・クランチ・グリーンリーフ Richard Cranch Greenleaf ( 1887 – 1961 )のコレクションで、彼の没後1962年に遺贈された作品群のなかのひとつです。
彼は膨大なコレクションを彼の母であるアデリーン・エマ・グリーンリーフを記念して、その思い出を冠して一括寄贈しました。
その蒐集品は質量ともに素晴らしいもので、現在でも同館を代表するだけでなくアメリカを代表するアンティーク・レースのコレクションのひとつとなっています。
私も以前から彼のコレクションは憧れていましたし、その素晴らしい蒐集を見る度に溜息の出る思いで眺めていました。
今回、縁あって2人の偉大な蒐集家にまつわるレースを入手することができ、嬉しさとともにアンティーク・レース蒐集のたのしさをあらためて噛み締めています。
おわり