オピオイドの副作用
3大副作用は便秘、悪心、眠気。
悪心と眠気は個人差が大きい。出やすい人と出にくい人がいる。
オピオイドを継続することで悪心や眠気に対する耐性が生じて数日で軽減、消失するがこれも個人差はある。
悪心や眠気が生じるのは初回投与時、増量時の3日以内。
一定量で1週間以上継続している状況で悪心や眠気が急に生じた場合は、
オピオイド以外に原因が無いか検討すべし。
※高Ca血症による悪心、眠気 ※便秘による悪心 ※他の薬剤による眠気等
明らかにオピオイドが原因の場合は、減量やオピオイドの変更等を検討。
眠気に関しては本人が不快でなければ変更しなくてもよい。
<point>
★オピオイド開始時、増量時は特に副作用が生じていないか記録に残すことが重要
悪心・嘔吐
鎮痛作用が発現する必要量の約1/10で起こり、悪心は服用患者の約40%に、嘔吐は15~25%に発生する。
発現機序としては
①化学受容器引き金帯(CTZ)への刺激
オピオイドを投与し、血中のオピオイド濃度が上昇するとCTZが感知して嘔吐中枢に働きかけるため悪心嘔吐が出現する。
→ドパミンD2受容体拮抗薬(ノバミン・セレネース)
②前庭神経への刺激
前庭神経を刺激して平衡感覚を鈍らせて悪心を起こす。
→抗ヒスタミン薬(トラベルミン、ポララミン)
③消化管の運動停滞
胃の前底部の緊張により運動性を低下させるので、胃内容物の停留によって嘔気・嘔吐が発現することがある。
→制吐薬として消化管運動を亢進する(ナウゼリン、プリンペラン)
ほとんどの人は体が慣れて1-2週間以内に制吐薬も中止できる。
余談
CTZにはD2受容体があることから、予防的な制吐剤として抗ドパミン薬のノバミン、セレネースを開始時に併用することが薦められていた。
しかし錐体外路障害の副作用が問題となることが報告されて最近では予防的な制吐薬は使用しなくなりつつあります。(日本で実施された無作為試験ではノバミンを投与しても悪心嘔吐は抑制されないという報告もある)
Efficacy of Prophylactic Treatment for Oxycodone-Induced Nausea and Vomiting Among Patients with Cancer Pain (POINT): A Randomized, Placebo-Controlled, Double-Blind Trial - PubMed (nih.gov)
抗ヒスタミン薬(トラベルミン)を使用し、対応できない時はミルタザピンを使用してみる。
ミルタザピンは抗ヒスタミン作用+5-HT3拮抗作用も併せ持つ。
オピオイドによる悪心が5-HT3に関連しているかは不明であるが、抗ドパミン薬を避けるため。
便秘
鎮痛作用が発現する必要量の約1/50で起こり、経口モルヒネ服用患者では約40~70%に発生する。
オピオイドには平滑筋を緊張させる作用がある。特に腸の平滑筋を緊張させるので腸の運動が鈍くなり、ほとんどの患者で便秘を起こす。
平滑筋の緊張には耐性ができないのでオピオイドを使用する限り便秘への対策が必要です。
オピオイドによる疼痛治療を成功させるには、排便マネジメントが不可欠。
痛みのためにいきめない、不眠不安などのストレス、動けない食べられない状態であればさらに便秘になりやすい。
またオピオイドによる便秘は食事療法のみでは対応困難な事が多い。
<point>
★排便状況を記録するように患者に促してみる。
排便回数、便性状、量、使用した下剤、オピオイドのレスキュー回数等
医療者が相談にのるときに指導しやすい。
【主な便秘薬】
①ナルデメジン(スインプロイク®)
オピオイド誘発性便秘症専用の薬。
消化管でのオピオイド作用をブロックする。血液脳関門の透過性を低下させる薬物構造となっているので中枢による鎮痛作用には影響しない。
作用機序を考えるとナルデメジン予防的投与が理にかなっている。
可能であればオピオイド導入時より開始すべし。
消化管閉塞がある患者は禁忌。
<point>
他の下剤のように自己調節(増減)しない。1日1錠のみ。
開始後数日間は下痢や蠕動亢進による腹痛や悪心などが起こることがある。
下痢が生じた場合にも他の便秘薬を中止することで2-3日で治まる事が多いため、最初に中止しない。
ただし苦痛が強い場合は中止。
浸透圧性下剤
腸内で水分分泌を引き起こし、便を軟化させて排便回数を増加させる。
②ポリエチレングリコール(モビコール®)
PEG製剤は溶解して水分と結合し、腸管まで吸収されずに運ばれることによって、便中の水分量が増えて滑らかな排便が期待できる。
電解質異常を起こさず、薬物相互作用もない。
また体内で吸収されないので腎機能が低下している場合も使用ため使用しやすい。
効果を実感するまでは2-3日以上かかる。
<説明例>
・効果が出るまでに2-3日かかるので、すぐに便が出なくても続けてください。
・負担がある場合は食前後に関わらず、その日のうちに飲めれば大丈夫です。
・食後だとお腹がいっぱいで飲みづらいかもしれないです。朝食前や起床時がおすすめです。
③酸化マグネシウム(マグミット®)
高Mg血症に要注意。1日2g以上必要になる場合は他剤への変更も検討。
1日3回で処方される事が多いが、患者に合わせて1-2回に分けて服用してもよい。
安易な使用は慎重に。特に高齢者、腎機能障害、長期に使用する場合はしっかりとモニタリングを。
<point>
胃酸と膵液によって炭酸Mgに変化して作用を発揮するので、食後に服用した方が効果は得られやすい。
なので胃切除後の患者や胃酸分泌抑制剤(PPI、H2b)を使用している患者では効果減弱する可能性あり。
分泌性下剤
腸粘膜上皮に作用することで腸液の分泌を促進し、便の輸送速度を速めて排便を促す。
④リナクロチド(リンゼス®)
大腸痛覚過敏を減弱する作用も持ち合わせているので、腹痛や腹部不快感を合併している患者に使用すると特によい。
食後の方が作用が強く出るため、最初は食前投与として効果不十分であれば食後に変更する。
体内で吸収されずに排泄されるので腎機能障害でも安全に使用できる。
⑤ルビプロストン(アミティーザ®)
小腸での水分増加による悪心が生じることがある。対策としては食直後に服用するとよい。
体内での吸収はわずかであるため腎機能障害でも比較的安全に使用できる。マイルドな便秘薬を検討したい場合やリナクロチドでは作用が強すぎる場合にはアミティーザが良いかも。
胆汁酸トランスポーター阻害薬
⑥エロビキシバット(グーフィス®)
胆汁酸の再吸収を阻害することで、大腸内に流入する胆汁の量を多くする。
大腸内に流入した胆汁酸は大腸の水分分泌作用と蠕動運動亢進作用に働きかけ排便を促す。
食事により分泌される胆汁酸を流入させるために食前に投与する。
浸透圧性下剤や分泌性下剤とは異なる作用機序のため、追加で併用すると効果的。
体内で吸収されずに排泄されるので腎機能障害でも安全に使用できる。
<point>
重度の肝機能障害や胆道閉塞のある患者の場合、胆汁酸の分泌が低下しているので十分な効果は発揮できない可能性あり。
胆汁酸製剤(ウルソ)と併用すると胆汁酸製剤の効果を減弱させしまう。
参考:がん疼痛緩和の薬が分かる本
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