平凡な日常
とある日曜日。
いつものようにいそいそとプールへと向かう道中。
この日はだいぶ寝坊してしまい、洗濯やら何やらしていたらあっという間に夕方近い時間になってしまった。
とはいえ、平日土曜は23時、日曜祝日でも21時まで営業してくれているありがたい公営施設。
特に急ぐこともないので、何となく、普段は通らない路地に入ってみた。何となく、心の声に従ってみたのだ。
何ということもない住宅街が続く中、一軒のバーらしき店先で、開店の準備にいそしむ男性がいた。30代半ばくらいだろうか。
男性は、入口横にある立て看板に、今日のおすすめなどを書き込んでいるところだった。
こじゃれた店でよく見る黒板式のやつ。
チョークで見事なデザインがほどこされたものを見ると、いつも尊敬の念がわく。自分の中には見当たらない才能をひしひしと感じる。
あまりジロジロ見るのもアレなので、その男性の腕前のほどは遠目でわからなかったが、目の前の仕事に真摯に取り組む姿を見て、「LIFE!」という映画を思い出した。
それほど映画好きというわけでもないけれど、割と印象に残っている映画のひとつだ。
せっかくだからもう一度見てみようと思ってアマプラを検索すると、レンタルしないと見られないとのこと。ああ、分かってるよ、君はいつもそうだ。僕らは相性がイマイチらしい。見たいと思う映画は、たいてい無料では見せてくれない。
仕方がないのでネットであらすじを見ながらどんな話だったか、思い出してみる。
雑誌の編集部でネガフィルムの管理者として働く、地味で平凡な冴えない男が主人公。雑誌の廃刊に際し、最後の表紙を飾るはずのネガが見つからず、それを求めて世界各地を飛び回るドタバタ劇。超ざっくり言うとそんな感じ。
その写真を撮ったのは社を代表するフォトジャーナリストで、いわく「自身の最高傑作」とのこと。
すったもんだのあげく、ようやく手に入れたネガを現像すると、会社の前の噴水に腰掛けて、熱心にネガを確認する主人公の姿が映し出されている。
最高傑作と呼ぶには、あまりに地味で平凡な場面。
え?これのどこが最高傑作なの?
最初はそう感じた記憶がある。
でも、社を代表する腕利きのフォトジャーナリストは、その姿の中に「生きるって、結局こういうことなんじゃね?」ということを、垣間見たんだと思う。たぶん。
そう思ったとき、何者でもない自分も、別に間違っていないんだと、励まされている気がした。地味で平凡な毎日だけど、それはそれで悪くないんじゃないかと、少しだけ、そう思わせてくれた。
そんな映画の一コマと、住宅街にひっそり佇む店の軒先で仕事にいそしむ男性の姿が、僕の中で重なった。もし彼が店のオーナーだったら、地味でも平凡でもない、とてもジリツした人なんだけど。
人が何かに打ち込んでいる姿を見ると、不思議と自分も頑張ろうと思う。もしかすると、平凡な日常を送る自分でも、ふとした場面で、どこかの誰かにささやかな力を、贈っているのかもしれない。
なんてな。