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哲学や思想は社会のインフラだ!〜『哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで』

◆斎藤哲也編『哲学史入門Ⅱ デカルトからカント、ヘーゲルまで』
出版社:NHK出版
発売時期:2024年5月

人文ライター斎藤哲也のインタビュー形式による哲学史入門シリーズの2冊目。17世紀の「大陸合理論」哲学から、「イギリス経験論」を経て、その両者を統合したとされるカント哲学、さらにヘーゲルらが主導した「ドイツ観念論」への流れを概観します。登場するのは、上野修、戸田剛文、御子柴善之、大河内泰樹、山本貴光、吉川浩満。

何人かの論者はこれまでのきれいに整理された哲学史には批判的なスタンスで、後世の人々があとから構成した図式にすぎないことを強調しています。「後から作った整理や図式を使うんじゃなくて、結局テキストのなかに入っていくしかない」(上野)というのは正論だとしても、歴史的に蓄積されてきた読解の手助けなしにテキストに入っていっても素人には歯が立たないでしょう。そもそも歴史とは後づけであるのは当然の話。歴史的な視点でテキストを読むことに過剰に懐疑を示すような態度は、本シリーズのコンセプトをも真っ向から否定するもので、私にはいささか珍妙な感じがしました。

それはそれとして本書を読んで最も認識が改まったことはヘーゲルに関する見方です。ポストモダン隆盛の時代には悪の悪玉のようにいわれていたヘーゲルが、本書では「ポストモダンの先駆者」的評価を得ているのには驚きました。大河内による解説です。現代思想方面からは、理性を絶対的なものと見なすヘーゲルの理性主義は批判の的になったけれども、同時に彼は近代的な合理性に対する批判者でもあったといいます。

 ……彼は、数学的・自然科学的な合理性を自分の「理性」の立場とは区別して「悟性」と呼んで批判します。だから、ヘーゲルの「理性」とくに初期のヘーゲルは、近代的な合理性に対する批判を、感情や直観を重視することで展開していたんです。(p239)

また末尾に収録された山本と吉川のトークで「哲学や思想は社会のインフラ」という吉川の発言には心から同意したい気がします。哲学への誘いとしてもじつに巧みな表現ではないでしょうか。

 ……道路や水道も社会のインフラだけど、哲学や思想もインフラだということです。現在のわれわれの社会常識を見直そうと思ったら、哲学史を二〇〇年ぐらい遡ったりする必要がある。(p254)

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