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やさしさを見つける日々〜『あきらめる勇気』

◆松永信也著『あきらめる勇気 ──「見えなくなった」僕を助けてくれたのは』
出版社:法藏館
発売時期:2024年12月

著者の松永信也は人生半ばで網膜色素変性症で失明しました。現在は日本視覚障害者団体連合・同行援護事業所等連絡会会長を務めるほか、龍谷大学、京都福祉専門学校などで特別講師・非常勤講師を務めています。

本書はブログ記事の中から厳選した作品を収めています。一編一編が詩のように簡潔な文章で構成されているのが特長です。

失明直後に感じたのは、悲しみ、苦しみ、孤独感、挫折感……。それでも、少しずつ少しずつ何かが溶けていきました。そして「『あきらめる勇気』みたいなものが、人間にはあるのかもしれない」と思ったのでした。「やさしさを見つけるのは、見えていた頃よりはるかに上手になった」。

人びとのやさしさは「目を貸してくれる人達との交わり」をとおして日々の生活で感じてきたこと。それらがまるで映画のワンシーンのように綴られていきます。

カンカン照りの昼下がり、バス停で日陰の場所まで引っ張っていってくれたおじいさん。知らずに車道に飛び出して歩いていると、信号で停車中の車の中から「そこ車道だよ」と教えてくれた運転手。複雑な構造の京都駅で電車の乗り換えができるようサポートしてくれたスコットランド人の女性眼科医のふたり……。

私たちの社会にはまだまだ足りないものがあるに違いないでしょうが、本書が描き出す人びとはやさしさに満ちています。私たちの社会はまだまだ捨てたものではないと感じさせられた次第です。

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