自由と平等の葛藤を友愛が調停する!?〜『街場の米中論』
◆内田樹著『街場の米中論』
出版社:東洋経済新報社
発売時期:2023年12月
このところ内田樹が熱心に論じている米中関係に関する本。といっても大半は米国論です。本人もあとがきで釈明しているとおり既刊書で書いてきたことと重複する箇所が多く、内田の愛読者には「またやってるな」という感想以上のものはないかもしれません。
カール・マルクスとエイブラハム・リンカーンが同時代人であり、二人の間に交流があったことに言及している箇所などは興味深いものの、それも内田があちこちで書いてきた話です。
相対主義の成れの果てとしてあらわれた「ポスト真実の時代」における反知性主義的な風潮の源流をポストモダニズムに見出すというのも昨今の思想界の紋切型の一つですが、内田もまたその紋切型を反復しています。しかし少なくとも日本では、ポストモダン隆盛時においても普遍的な理念を手放すような単純な相対主義が主流を成すことはなかったと思います。
自由と平等の食い合わせの悪さを強調し両者の暴走を友愛で抑制しようという結論にしても、これまた本人が自覚しているとおり、あまりにも平凡で拍子抜けの感が否めません。
すべては程度問題で、結局最後に持ち出されるのが「常識」というのも、思想家の本にしては陳腐にすぎるでしょう。
柄谷行人は、そもそも自由と平等を対立項と見なす態度を斥け、その認識を基に、あるべきアソシエーションを構想しました。比較するのもアホらしいのですが、思想・哲学の営みとしては柄谷の仕事の方が断然魅力的です。