社会全体を変えるための〜『トランスジェンダー入門』
◆周司あきら、高井ゆと里著『トランスジェンダー入門』
出版社:集英社
発売時期:2023年7月
「LGBT」と一括りにされることの多いトランスジェンダーですが、私自身、彼ら彼女らの実態についてはほとんど何も知りませんでした。本書は私のような初学者には文字どおりの良き入門書といえるでしょう。
トランスジェンダーとはどのような人を指すのか。よくいわれる「心の性と身体の性が一致しない人」という説明は不正確だといいます。自分の性別に違和感を持つという経験はトランスジェンダーに限らないのだから。一般的な定義は「出生時に割り当てられた性別と、ジェンダーアイデンティティが異なる人」。この定義に基づけば、人口の99%はトランスジェンダーではない人=シスジェンダーということになります。トランスジェンダーは圧倒的に社会的少数者なのです。
トランスジェンダーがいかに「生きづらさ」を感じてきたか。
何かにつけ男子と女子を区別したがる教育現場。トランスの偏見を助長してきたTVドラマや映画作品の数々。ヘルスケアを受ける際に被る差別。……などの事象が具体例とともに報告されていて、そうした状況は現在進行形としてあります。「性別を移行する」ことには多大な困難や苦労を要することも再認識させられました。
とりわけ法律の観点からみたトランスに対する差別的状況は深刻です。詳細は省きますが、本書では、特例法、民法における同性婚の禁止、差別禁止法の不在について紙幅が割かれていて、法律に疎い私にはたいへん勉強になりました。
「女子トイレや女風呂に男性が入れるようになる」などと不安を煽る言説も絶えませんが、今なおトランスジェンダーが体験している苦難を思えば、そのような言説の反動性は明らかでしょう。
トランスジェンダーの全体像をつかむことのできる本邦初の入門書という触れ込みに偽りのない内容だと思います。生半可な知識(とうよりも偏見)をもったまま議論する前に、本書に書いてある程度の基礎知識くらいは身につけたいものです。シスジェンダーがトランスジェンダーに向かって(注文が多いなどと)とやかく言う前に、まず社会の方が変わる必要があるのではないでしょうか。
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