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自分が好きではない情報もそれなりに受け止める!?〜『テレビ磁石』
◆武田砂鉄著『テレビ磁石』
出版社:光文社
発売時期:2024年10月
けっこう分厚い本です。テレビ番組のみを素材にこれだけの分量を書き続けてきた労力にまず頭が下がります。皮肉ではありません。テレビを一切見なくなって久しい私には到底考えられない営みです。
今や「オールドメディア」の象徴的存在として、ネットではもっぱら揶揄の対象として扱われているテレビ。しかし武田砂鉄自身は「同じことをずっとやっている」人が好きなのだといいます。性懲りもなく同じことをやり続けているメディアの特性から今をとらえようとする武田もかくして安定の存在感を醸し出しています。
もっともテレビの「不変性」にも揺らきがみられるようです。「どうでもいい出来事を伝える余裕がテレビから失われたのでは?」というアイロニカルな感慨に武田の批判精神が吐露されているように思いますし、評判の良かった野田元首相の安部追悼演説に対してはっきり違和感を表明しているのにも心から共感します。国会での野党の追及を十分に扱わないNHKニュースまで、長い尺を使って紹介していたらしい。
……あのような形で亡くなられたのは痛ましいが、その最期と政治家としての評価を切り離すのは当然のこと。総理大臣という強い権限を持っていた人物をどう評価すべきか、時間をかけて考えていくしかない。(p235)
他方で、小泉進次郎を揶揄するに「セクシー」の特異な用法を言挙げしたり、24時間テレビの感動作りに一言物申したりするなど、ありふれた論調も目立ちます。
テレビに出ている人が、実際にどのような芸を持っているかよりも、誰とどのようなコミュニケーションをはかっているかが重視されるようになった。それは私たちが実社会でやっていることと変わらない。(p35)
しかり。ずいぶん前、私がテレビを見ている時からそんな調子でやっていたように思います。テレビは実社会の実態を反芻し、実社会もまたテレビが伝える人間模様を反復する。際限のない退屈な循環が繰り返されていることを私は本書で再確認したのでした。